2010/01/13

レセプト完全オンライン化とHealth2.0

2008年4月10日、厚生労働省令第111号により省令が改正され、レセプトのオンライン請求義務化が決定しました。原則、平成23年3月31日までにすべての医療機関は病床数などに合わせ、決められた年の4月1日からオンライン請求に移行しなければなりません。レセプトデータの電子化は、医療費のムダを抑制し、医療の効率化を促進する基礎となる施策です。しかし、レセプト電子化に反対した日本医師会、歯科医師会、薬剤師会により、例外規定が設けられ実質骨抜きとなりました。

2007年度の日本のレセコンの市場規模は3,200億円である。現状ではレセコンの普及率は病院・診療所で80%、歯科診療所で70%、調剤薬局で 90%と高い。しかしながら2008年度の推定でも施設数ベースのレセプト電算化率(施設数ベースのオンライン化あるいは電子媒体対応割合)は病院で 30%強、診療所で15%、調剤薬局で65%であり、2013年の完全レセプトオンライン化に向け急速な整備が要求され、市場は急速に成長すると予測される。
出典:株式会社シード・プランニング

コンピューターが技術者のみが扱える専門的機械から、一般人も扱える機械として普及してきたのは1980年代に入ってからです。レセプト電子化の構想が最初に厚生省から発表されたのは、1983年のことです。当時、「レインボーシステム」と銘打って打ち出されたこの構想に、当時の花岡日医会長は「デメリットもあるがメリットもある」と柔軟な姿勢を示し、花岡会長のあとをうけた羽田会長も1985年春から、千葉、栃木の2県で試行的に実施することを合意しました。しかし、実施直前の1985年1月の毎日新聞に、電算処理は審査を強化して不正請求の防止を図るのが狙いという趣旨の記事が出たため、千葉県医師会が反発。日医も厚生省との合意を破棄して、この構想は消滅しました。以後、レインボーシステムは厚生省、日医にとって禁句となり、新たな取り組みを始めるまで3年の年月を要しています。1988年から再度スタートしたレセプト電子化システムはまず、技術上の問題点を検討するため技術評価試験に取り組むことになります。技術評価試験は、次の段階であるパイロットスタディに移行するまでの試行期間であり、当初1年間の予定で始まりましたが、診療報酬改定の際にエラーが多発するなどの問題点が明らかになり、2回にわたって延長され、結局3年間行われることになりました。ちなみに、1990年4月の診療報酬改定では、社保分で9.83%、国保分で19.1%もの高いエラー発生率となり、とても実用に耐えられない状況でした。1991年10月よりパイロットスタディに移行し、パイロットスタディは1997年9月をもって終了、同年10月より本稼働に移行しています。20世紀末は、インターネットの普及とIT技術の急速な進歩がみられた時代であり、21世紀に入ってすぐに高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が制定され、「5年以内に世界最先端のIT国家を目指す」E-Japan戦略が策定されました。

情報化時代にあって、医療保険の請求支払いシステムは最も遅れた分野です。増大する医療保険の請求事務を合理化・効率化し、時代にふさわしいものにしていくには、このシステムなしには考えられません。費用の可視化および透明化は、すべての経済活動の前提基礎です。政府のIT戦略本部が策定した「i-Japan戦略2015」には、日本版EHR(Electronic Health Record)構想が盛り込まれています。医療情報の入口となる医療現場での電子化が遅れるということは、その後に控えるPHR(Personal Health Record)などが滞ることを意味します。「医療費適正化」という大義名分がありますが、レセプト情報のナショナル・データベースを構築・分析することによる医療機関ごとの給付適正化です。これはすでに韓国において実施されています。また、完全移行の平成23年度中に、年金手帳・健康保険証・介護保険証の役割を果たす社会保障カード(仮称)が導入される予定となっています。

PHRは病院のカルテを電子的に保存しておくだけでなく、人間ドッグの結果や既往症の具体的な内容、毎日飲んでいる薬やサプリメントの品目、その他に受けたことがある検査データやレントゲン画像など、自分の体に関する健康情報をすべてオンライン上の一ヶ所に保存しておき、事故や病気の際には担当の医師にその情報を開示して、治療に役立ててもらう仕組みを目指しています。PHRの内容が充実していれば、新しい病院に行く度に検査を受け直したり、自分の体質や病歴について口頭で詳しく説明する必要が省けることから、医療サービスの効率化と医療費の無駄を省くことができます。病院や薬局などの医療現場で管理される患者の医療データはEHRと呼ばれ、従来のEHRが「クライアント&サーバ」システムでプロプライエタリなビジネスモデルであるのに対し、EHR2.0はクラウド・コンピューティングを活用したウェブベースでオープン&相互運用可能なものと想定されています。そのため欧米では、PHRの普及が医療改革の柱として注目されており、IT業界は、医療 + Web2.0 = Health2.0をコンセプトに病院や薬局などの医療現場で管理される患者の医療データ(EHR)と、患者が個人的に管理している健康データ(PHR)を結びつけようとしています。

マイクロソフトの「HealthVault」は、医療機関で記録されたカルテの他にも、保険会社、フィットネスセンター、家庭用の体重計や血圧など健康機器で測定されたデータを自動管理できるように開発されたパーソナルヘルスレコード(PHR)です。病院の医師は診察をする際の患者のデータにアクセスして、最近の健康状態をチェックした上で治療を進めることができます。マイクロソフトでは、体重計、血圧計、心拍計、歩数計、フィットネス機器などを開発する各メーカーに対して「HealthVault」の規格を提供することにより、健康デバイスのデータを保管するヘルスレコード市場の覇権を握る戦略です。
HealthVault 

Googleの「Google Health」はβ版のサービスで、病院などで記録される医療情報は本来、患者個人のものであり、患者自身が保有しておくべきものであるというコンセプトです。本来、PHRはEHRをはじめ他の医療システムの上位に立ち、これらを統合する中心的な医療情報であるべきだという考え方です。ユーザーが取り込める自分の医療情報は、Googleとの間で提携関係を結んでいる一部の病院や診療所に限られていますが、病院で診察を受けている患者が自宅から同サイトにアクセスすると、病院が保有している自分の診療記録を取得することができます。その中では処方されている薬のリストも表示されており、複数の病院に通院しているケース(内科と眼科と歯科など)では薬同士の相互作用やアレルギーの関係が自動的にチェックされる仕組みになっています。Googleは、病院で記録されるカルテの電子化や処方薬の販売においてインターネットとの連携が見込めるため、米国内だけで4兆ドルを超す医療ビジネスに個人医療情報の分野を確立し、世界の医療機関に対して電子カルテ作成のプラットフォームを無料で提供する方法で提携先を増やしていく戦略です。
Google Health(β版) 

Health2.0の流れは、インターネットによる医療革命そのもので、既存の医療業界が確立している利権との闘いになるでしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿