2010/02/04

書籍市場におけるデジタル・メディアの覇権争い

10数年前、市場の変化の殆どは、ビジネス活動によって推し進められていました。現在は消費者によって推し進められています。IT機器が浸透していくに連 れ、個人の生活と同様に、職場環境も変化していきます。企業は、組織構造とプロセスにIT技術を組み合わせ、生産性を大きく向上させています。ゲームのルー ルを変えてしまうイノベーションが市場の変化にぶつかると、市場の破壊が生じます。市場の変化は、市場がその重要性を認識し、適応する何年も前からすでに 起こっているのです。
米Apple社が2010年1月27日に発表したタブレット型コンピュータ「iPad」は、早くも世界で最も人気のあるタブレット型コンピュータになるといわれているが、果たして本当にそうなのだろうか。従来のタブレット型コンピュータの年間出荷台数は、世界中で200万台未満と見られる、決して大きな市場ではない。ある専門家は、その数は年々減少しているという。一方、電子ブック・リーダーやネットブックの市場はいまだ成長を続けている。

出典 iPadは大ヒットとなるか、中途半端な製品で終わるか 

Amazon、Google、Appleの3社は、それぞれ独自の電子ブック・リーダーや書籍コンテンツを揃えており、デジタル・メディア覇権争いの場は書籍市場にシフトしています。

iPadは装置とサービスのハイブリッドモデルともいえます。アップルが稼ぎ頭としている主力商品は、既にマッキントッシュから携帯端末へと移行しています。音楽のオンライン配信ビジネスでは、iPodを世界中でヒットさせたアップルが音源データの販売市場を掌握しました。携帯プレイヤー「iPod」の普及台数は全世界で1億台を超えており、製品としての売上は鈍化していますが、音楽作品のコンテンツ販売は鈍化を補う形で伸びています。iPodとiTunesのパッケージは、ネットワークベースのサービス・プラットフォームによって成功した優れた事例です。製品を売るだけではなく、電子コンテンツのライセンス料や利用料で稼ぐ方式です。

アマゾンは、電子書籍の分野で世界一の覇権を握る布石としてと、リーダー端末「Kindle」を開発しました。世界で1億人を超す読書家を顧客として抱えていることから、出版社や著者からコンテンツを提供してもらいやすい立場です。「Kindle Store」で購入できる電子書籍のコンテンツは既に30万タイトル以上が揃っています。独自の電子書籍フォーマットを普及させて、その後に電子出版社としての権利を独占する戦略です。Kindle用のコンテンツをiPhoneでも読めるアプリも無料で配布していますが、それでも現在の購読対象者は 100万人前後といわれています。世界のネットユーザーが約10億人いることからすると、電子書籍の市場を掌握しているわけではありません。

電子書籍の形式にはいくつもの種類や規格が存在しています。かってのビデオテープやダウンロード用の音楽ファイル、次世代DVDなど新しい媒体が開発されるたびに複数の規格が登場し、その再生機器を手掛けるメーカーが業界標準の座をかけて熾烈な競争を繰り広げたことが繰り返されています。リーダー端末に拘らないのが、グーグルの電子書籍市場に向けた戦略です。同社が得意とするネット検索の技術を前面に押し出した、「Google Books」です。検索機能を充実させたネットサービスとしての立ち読みです。世界で最も普及している電子文書のフォーマットは、Adobeの「PDF(Portable Document Format)」です。Google Booksは、PDFのプラットフォームをベースにしているので、ローコストで電子化できます。

電子書籍は、「電子書籍より紙書籍のほうが読みやすい」といった論点になることが多かったが、両者の優劣を付けるという考え方は既に古くなっています。これからの電子出版事業は、紙書籍の足りない部分を電子出版が補うという位置付けの元に、紙とデジタルを融合させた出版事業へと変化していくでしょう。音楽や動画の楽しみ方は、IT機器とブロードバンドで大きく変わりました。今度は読書の楽しみ方が大きく変わろうとしています。

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