2009/12/31

サラリーマンの時代は終わった

2009年度の新入社員約2400人を対象に行った意識調査
1.担当したい仕事は「チームを組んで成果を分かち合える仕事」が過去最高(83.5%)
2.「今の会社に一生勤めようと思う」が昨年に比べ大幅に増加、過去最高(55.2%)
3.「良心に反する手段でも指示通りの仕事をする」が過去最高(40.6%)
4.「仕事を通じてかなえたい『夢』がある」が4年連続で増加、過去最高(71.6%)

2008年度の新入社員約2700人を対象に行った意識調査
1.就職先企業の志望順位に関して、「第一志望」とする回答が、4年連続で上昇し過去最高(75.4%)。
2.処遇に関して、業績・能力主義的な給与体系を希望する回答が、調査開始以来はじめて6割を切る結果(57.7%)
業績・能力主義的な昇格を希望する回答についても、過去最低(63.4%)
3.転職・勤続に関して、「条件の良い会社があれば、さっさと移る方が得だ」とする回答が、4年連続で減少し、過去最低(23.4%)
「今の会社に一生勤めようと思っている」とする回答は4年連続で上昇し、過去最高(47.1%)
4.キャリアプランに関して、「起業して独立したい」とする回答が過去最低(15.8%)
財団法人 社会経済生産性本部 新入社員意識調査

雇用の現場に吹き荒れた嵐は激しさを増し、今や大企業の経営者ですら「正社員削減」を否定しません。「安定」の形がぼやけていく中で、将来への選択肢がより開かれているはずの20、30代の若者にしわ寄せが及んでいるのです。雇用を巡る環境の厳しさが一段と鮮明になる中、安定志向の高まりが反映されています。職場で悲鳴を上げたいが『安定』を失いたくない。そんなジレンマが広がっています。

終身雇用制度とは、すなわち『報奨の先送り制度』と言い換えることができます。若い頃は給与が低く抑えられ、年を追うごとに徐々にベースアップを果たし、定年前の数年間を年収1000万円の大台で過ごして、退職時に数千万円の退職金を手にする。いずれは億単位の資本を持つようになることが約束されていたのです。企業はプールした報奨用の資金を運用してますます栄え、労働者は先送りにされた"ご褒美"を受け取るため、ひたすら従順に身を粉にして働く。その結果、大きなマイナスを背負った戦後のスタート地点から、我が国はわずか30年で世界有数の経済大国へとのし上がったのです。

企業は生き物です。生き物は本能的に生命の持続を図ります。何よりも自らの生命の永続を最優先するものです。小を切り、大を生かす。今後、サラリーマンの待遇が著しく好転することはありません。サラリーマンでは、生きていけない時代になったという意味です。

2009/12/30

すでに起こった未来

2010年は未体験の激動とデフレとの闘いの年です。先進国のマイナス成長で実体経済の縮小が避けられず、金融機関や投資家の資産圧縮で資産市場の縮小も続きます。熱狂のうちに崩落の芽が潜むように、荒廃の中にも再起と希望の芽が潜んでいます。

市場原理主義と小さな政府のイデオロギーは富裕層がより豊かになれば、大衆にも恩恵が及ぶトリクルダウン理論を実行しました。抑止力を欠いたまま金融機関は利益至上の信用創造を続け、バブルがはじけたとたん世界は金融危機と同時不況の突入し、貧困層も住宅を持てるという夢の結末は、担保差し押さえと失業増です。

サブプライム問題は、強欲で結ばれた金融機関と投資家が引き起こした大惨事でした。投資家は一方的な被害者ではなく、金融機関との共生関係です。金融危機の震源が株式市場でなく信用市場だったのは、伝統的な株式投資に飽き足らない投資家が過大なり夕ーンを求めたからです。年金などの機関投資豪が実際にはあり得ない安全、有利な投資対象を求め、ヘッジファンドなどを通じて証券化商品や商品ファンドに投機資金を供給し、結果的に受益者でもある生活者の首を絞めました。その結果、各国政府、或いは世界経済全体を担保にしても「ヘッジ」しきれないほど、リスクは膨れ上がっています。強欲の戒め、足るを知る大切さの教訓です。

投資銀行に代表される金融機関の問題は、毒まんじゅうの証券化商品を製造・販売し、自らも中毒を起こした、銀行と証券を巡る古典的な問題です。物事の本質は不変であり、そして意外と単純です。レバレッジ=借金が本質です。借金をしてまでギャンブルをやってはいけません。借金でするギャンブルは「投資」とは言わないのです。

リスク管理の失敗という経営問題ではなく、自由化の弊害であり、国民経済を末曽有の危機に追いやった以上、規制強化は必至です。金持ちは利益を先取りし、ツケを国民に回されたのでは民主主義社会は維持できません。金融に限らず、無制約・無限定に競争できる時代は終わりました。

これまでに起きたこと、これから起きつつあることを発見し、未来を探し出すことが予測です。これから起こることは既に芽生えていますが、その影響はとても小さいのです。

重要なのは、すでに起こった未来を確認することなのです。
経営学者、ピーター・ドラッカー

2009/12/29

労働市場に起こる需給バランスの異変

■国内労働市場における非正社員化の推移
雇用者数  正社員  非正社員
1984年(昭和59年) 3936万人 87.7% 15.3%
1989年(平成元年) 4269万人 80.9% 19.1%
1994年(平成6年)  4776万人 79.7% 20.3%
1999年(平成11年) 4913万人 75.1% 24.9%
2004年(平成16年) 4975万人 68.5% 31.5%
2008年(平成20年) 5159万人 65.5% 34.5%

■非正規社員の内訳(2008年)
・アルバイト、パート  1152万人
・派遣社員        140万人
・契約社員、嘱託     321万人
・その他          161万人
────────────────
非正規社員の合計   1774万人
出典:労働力調査(総務省)

日本には約6600万人の労働人口がいる。国内労働者の内訳は、自営業と経営者(役員)を除いた“雇用者”の数が約5100万人。その中で正規社員は65%にあたる3300万人、残りの35%(1700万人)が非正規社員として働いています。非正規社員中の派遣労働者数は140万人。報道では契約を打ち切られる派遣労働者を不況の被害者として象徴的に扱っているが、労働市場全体からみると約2%にすぎません。非正規社員の内訳では、パート・アルバイトが64%と最も高く、日本の産業は彼らの存在無しでは成り立たない構造になりました。


今回の不況で赤字に陥った会社に勤める正社員が影響を受ける年収の減少額は、残業手当とボーナスがカットされることにより、平均で約100万円と予想されています。製造業の現場では残業一切禁止ということになっています。他の業界でも次期のボーナスが減額されることは必至です。平均よりも高年収を得ている人であれば、200~300万円の減額も覚悟しておいたほうがいいかもしれません。

正社員、非正社員という区別は関係なく、景気が下向きになれば人件費削減のために雇用の調整を行なうのは企業として当然のことです。雇用が維持されていれば良いほうで、40歳を超えた中高年のホワイトカラー職を中心として希望退職を勧奨する企業は増加するでしょう。米国では、不況時の企業が従業員のレイオフ(解雇)を行なうことで社会的に非難されることは少ないです。米国での勤続年数は「4年」というのが平均値。日本では20代~60代まで、社員すべての勤続年数から算定した正社員の平均勤続年数は約13年というのが統計値だが、50歳以降でみると20年以上にわたり同じ会社に勤務しているのが一般的です。まだ日本の労働市場は恵まれているほうだが、今後は労使の関係が大きく変わらざるをえません。労働人口の減少は総数の変化であり、労働人口の高齢化は比率の変化です。景気悪化は総数、比率とも急激に変化させます。

[ 付記 ] 2009-12-29
労働者派遣法の施行・改正の経緯
1986年 労働者派遣法施行。設計業務など専門的知識を必要とする13業種に限定して解禁
1996年 派遣対象業務を26業務に拡大
1999年 医療、製造業など5業務を除き労働者派遣を原則自由化
2004年 製造業への派遣を解禁


2009/12/28

危機下の戦略どう描くか

中生代に繁栄を誇った恐竜がなぜ絶滅したのかは、いまだに謎です。自然淘汰説は、環境の安定を前提に、その環境に最も適合した種が生き残ると主張してきました。

経営のキーは環境に適応するということです。
環境には、企業の外部環境と内部環境があります。

外部環境に対しては、政治・経済・社会・消費環境・業界動向の時流を見極め、「何をすべきか」を考えること。
内部環境に対しては、自社の経営資源の強み・弱みを分析し何ができるかを考え、その中で一番なれるものを見つけ、一番になること。

この二つの環境に上手く適応できることが経営の1つのキーとなります。

傍観しているだけでは経営とはいえません。
世界的なデフレ基調が当面続くとすれば価格や利益の下押し圧力は強くなり、電機や食品、流通などほとんどの業界で確実に再編淘汰が進んでいきます。思考停止している間に需要の潮位が引き、喫水線の浅い船も深い船も残らず座礁してしまいます。発想の限界を設けず将来の業界構造を見極め、劣位を直観した資産や人材の活用を追求すべきです。百年に一度の経済危機を奇禍と認識すれば、百年に一度の自らの競争ポジション再定義です。勝ち残れる技術と経営資源があると自負するなら、積み上げた内部留保などを有効に使うことで多くの選択肢があります。

研究開発の手を抜かないのは日本企業の誇って良い遺伝子です。省エネ、温暖化防止、安全・安心など動かぬ標的に専心すればよいのです。コスト競争を回避するビジネスモデルも工夫すべきです。優れた人材もきらりと光る企業も、どちらも買い時です。大地震や大事故では負傷者の処置の優先順位を決める果断なトリアージが人命を救います。企業も同じです。

「自然淘汰」「市場原理」という原理は、似ています。これらはともに、「優勝劣敗」という概念に基づいています。しかし、それで解決するのは、好況時だけです。大規模な不況時には、優勝劣敗という概念は通用しません。「合成の誤謬」ゆえに、個別の企業がいくら努力しても、問題は解決しません。国全体の問題は、一つ一つの企業や一人一人の個人が努力しても、解決しません。国全体のマクロ政策が必要となります。

2009/12/27

学歴デフレ

深刻な不況によって企業が大幅なリストラを行なう際、経営者は極力コストを抑えて生産性を高める手法を探ります。作業の効率化や自動化、または外注などのアウトソーシングによって、会社再生を図ります。1990年以降にみられる人員削減の傾向は、後に業績が回復しても「再び同じ類の職種を雇い戻すということはない」という点です。80年代までは失業者の中でブルーカラーの占める割合が多かったが、90年代からはその割合が逆転しています。その理由として、企業のリストラが中間管理職を対象にしはじめたことに加えて、パソコンやインターネットが普及してきたことによる影響が大きいのです。いままで存在していた職種が消滅することを意味しているので、単なる雇用調整ではないことを“働く側”も意識しておくべきでしょう。

現在、世界の労働市場で起こっているのは、高学歴者(大卒者)の失業率が高くなっている傾向で、「学歴インフレ」と呼ばれています。本来、学歴が高い人ほど優秀で新しい仕事を習得する能力に長けているため、低学歴者よりも失業率は低いはずです。ところが、大卒者の数が増えてくると労働市場では学歴の価値が下落し、自分が希望する職種や収入が得られる企業へ就職できないという状況になります。このような傾向は、日本に限らず教育熱がヒートアップしている中国や韓国でも顕著に表れています。経済成長の真っ直中にある中国でさえも、大学を卒業しても就職できない若者の数(無職率)が15%を超えて社会問題になっています。大学新卒者に限らず、高学歴者の失業率が高まっている傾向は1990年代以降の米国からも見て取れます。


大学、短期大学、高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査 (厚生労働省)

2008年3月卒の就職率は、96.9%です。まだ世界不況が深刻化する前だったことと、団塊世代の大量退職による求人枠が増えたこととが理由として考えられます。しかし、厚労省が公表している就職率は「就職希望者数」に対する「就職内定者数」の割合を算定したものです。全体の30%を占める「就職を希望しない学生」が含まれていません。大学生の心理にも、自分の学歴に対するプライドや理想があり、それに見合う職業や企業を見つられなければ、あえて「今年は就職しない」という選択肢もあります。

企業が優秀な人材を求めていることは昔も今も変わりません。求職者がウリにする自身の経歴と、企業側が求める人材のスキルとの間でミスマッチが起きています。これからは、自営業、正社員、非正社員という既存の枠を取り払った働き方が主流になっていきます。会社に雇用されていると言っても、自分のことを「労働者」と意識している人は次第に少なくなり、それよりも「個としての労働者」と捉える傾向が強くなっていきます。その一方で、できるだけ同じ会社に長く勤めたいと考える矛盾もあります。会社に就職するというより、一つのプロジェクトについていると考えたほうが実態をよく表しているといえるかもしれません。

[ 付記 ]
高学歴の人ほど就職は有利というのが世間の通念だが、大学院を出るとかえって就職は難しくなります。大卒ならつぶしがきくが、大学院で専門を身に付けると、人材としては扱いにくくなるからです。理系でも、博士課程まで行ってしまうと、一般企業への就職は難しくなります。

環境適応力と変化適応力は、二律背反の関係です。環境に適応しないと、滅亡するか、あるいは周縁で冷や飯を食うことになります。特殊な環境に適応し、中心に近づけば近づくほど、環境の変化に対応することができずに、滅亡するリスクを抱えます。

大企業の中に埋没すればするほど、その企業が倒産した時、その企業と運命をともにしなければならないリスクが増加します。研究職を手に入れることができず、勤務していた予備校も少子化で倒産し、タクシードライバーとして生活している博士号所有者はたくさんいます。自分の専門と一緒に心中してしまった人たちです。得意分野に特化すればするほど、その専門と運命をともにしなければならないリスクが増加します。

2009/12/25

価格波乱の時代続く

金融・経済危機の収束には時間がかかり、変化率が5割を超すような価格波乱の時代は続きます。商品市場にとって昨年の変化は価格の乱高下だけではありませんでした。2004年から5年連続で最高値を更新した原油高騰はついに世界最大の消費国、米国の需要を失速させました。国際エネルギー機関(IEA)は世界の石油需要は25年ぶりに前年を下回ったとみています。

米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題と住宅バブルの崩壊が深刻になって以降、市場の不安は個別の金融機関から金融機能の不全に広がり、昨年後半には実体経済から雇用不安へと波及しました。オバマ米政権への政策期待が高まると同時に、危機と不安は核心へと向かいます。

失業の増加は新興国で政情不安、先進国では社会不安を招きます。昨年後半にタイやギリシャで起きたような混乱の発生リスクは増加します。政情不安は需要国で起きれば一段と需要を冷やす半面、資源国で発生すれば景気低迷下でも供給不安から価格を反騰させてしまいます。当面の懸念はインフレからデフレへと180度転換したものの、2010年の図式は景気悪化→商品安にとどまらない可能性があります。米国の財政悪化を材料にドル売り圧力が一段と強まれば、行き場を失ったマネーが再び商品市場に流入する懸念も否定できません。景気の影響を受けにくく、在庫率も低い穀物には常に天候異変による減産リスクがつきまといます。

価格急落と加速した円高は、海外での食料・資源確保に出遅れた日本勢にとって挽回チャンスとなります。価格変動や需要減少でさえ、企業には従来の値決め方式や過剰設備を見直す好機とも言えます。世界経済が新興国を組み込んで成長していく以上、金融危機が去ってもリスクは残ります。安定から波乱対応型へ早急に変化しなければなりません。

2009/12/22

アマゾンが狙う電子書籍ストアーのビジネスモデル

グーテンベルグが15世紀に活版印刷技術を開発して以来、人類が600年近くにわたって親しんできた本のありようが変わろうとしています。世界最大の電子商取引企業である米アマゾン・ドットコム。同社が狙っているのは、電子書籍の分野で世界一の覇権を握ることで、その布石として「Kindle(キンドル)」というリーダー端末を開発しています。

電子書籍を読むための専用端末は、他メーカーからも発売されているが、キンドルがそれらと異なる点は、端末に装備されているワイヤレス機能から、携帯電話の通信網を経由してアマゾンサイトへ接続、探している本を購入して、1分程度でダウンロードできることです。最新の情報をタイムリーに配信することもできるため、電子化された新聞の購読端末としても適しており、実際にニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナル等がキンドル版の電子新聞を発行しています。この購読方法なら、自宅に溜まっていく古新聞の山に悩むことはなくなり、必要な情報(記事)をバックナンバーの中からも即座に検索することが可能です。誤って消してしまっても無料で再入手できます。

しかも、電子書籍や電子新聞をダウンロードする際の通信料はアマゾン側が全額負担するため、読者はiPhoneのように新しい情報端末を使う度に増えていく通信料金の請求書に胸を痛める必要はありません。ただしキンドル本体は購入する必要があり、6インチの画面で約1500冊のデータが保存できるモデルが299ドル、9.7インチで3500冊のデータが保存できるモデルが489ドルという設定です。07年秋に米国で発売したキンドルは、今でも注文から入手まで品薄状態が続いています。同社は販売数量を明らかにしていないが、各種推計によると発売から1年で25万-35万台程度売れたもようです。

平均的な単行本より軽い292グラムで、持ち歩くのも苦になりません。画面には本物の本のページそっくりの字体、レイアウト、質感で文章や写真が表示されます。途中で電源を切っても同じ場所から再開できます。

これまで映画やテレビ、音楽CD、DVDなど様々な新技術が登場し、情報の電子化・デジタル化が進展しました。

「本だけは機能的に余りに優れていて、代替できる電子技術が実現できなかった」「三年越しの開発でようやく本好きの使用に堪えるレベルの製品ができた。将来は絶版となったものを含めあらゆる本をキンドル上で読めるようにしていきたい」
アマゾンの創業者で最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏。

カギとなった技術の一つが、印字された紙と同様、自然光の反射だけで文字がハッキリ視認できるようにした表示技術である電子ペーパーです。後ろから人工光を照らす液晶に比べて目に優しく、長時間の読書にも向いています。

■ワイヤレス電子書籍リーダー キンドル(Kindle)
http://www.amazon.com/Kindle-Amazons-Wireless-Reading-Generation/dp/B00154JDAI/
※現在のところキンドル端末の日本語版は発売されていない。

この手の電子リーダー端末は、コンテンツ(電子書籍)が豊富に揃ってこそ有意義に使えるものだが、他社の場合には端末の開発には注力するものの、肝心のコンテンツは一部の出版社と業務提携をする程度で、それ以上にコンテンツが充実していかないことから、大半が失敗に終わっています。しかしアマゾンは、世界で1億人を超す読書家を顧客として抱えていることを背景に、下手なセールスをしなくても、出版社や著者からコンテンツを提供してもらいやすい立場にあります。既にアマゾン内に設けられた「Kindle Store」で購入できる電子書籍のコンテンツは30万タイトル以上が揃っています。各タイトルの価格(定価)は15~25ドルと紙書籍と同水準の表記がされているが、今はキンドルの普及キャンペーン中ということもあり、割引された実売価格の相場は10ドル前後(9.99ドル)になっています。

■Kindle Store
http://www.amazon.com/kindle-store-ebooks-newspapers-blogs/b?ie=UTF8&node=133141011

もともと米アマゾンでは、書籍を割引販売する方針であることに加えて、電子書籍は複製コストがかからないことから、紙書籍よりも安価な価格設定にすることが可能です。しかし「1冊9.99ドル」の設定には賛否両論があって、一般の読者は紙書籍よりも安く購入できることを歓迎している一方、収益面では、アマゾンがキンドルの通信費を負担した上で黒字を出すことは難しいという指摘もあります。

一方、キンドル向けコンテンツを提供する出版社の側からも“儲からない”という声が上がっています。電子書籍ビジネスでは、コンテンツの実売価格に対して4割が販売者、6割が出版社(著者印税も含む)という収益分配が標準になっているが、実売価格の相場を下げると実質的な利益は落ち込むし、書籍の電子化作業を販売者側に任せるのであれば、さらに分配率は低くなります。キンドルで購読可能な電子新聞は、新聞社が記事の使用許諾をしてアマゾン側が記事を電子化するという取引関係になっているが、その際に新聞社側に支払われる記事のライセンス料は、購読料の30%であることが米国議会で明らかにされています。新聞社がネットの巨人、アマゾンと提携するのは時代の流れとしても、消費者が安価で便利な電子新聞を購読することと引き替えに、既存の紙版読者が減ってしまうと、新聞社の経営が立ち行かなくなってしまうことが、議会でも懸念されています。

2009/12/21

アップルのビジネスモデル

アップルの初代iPodが登場したのは2001年のことで、それ以降は音楽業界の流通構造がCDからダウンロード販売へ一変した。これは音源を再生する携帯プレイヤーと、アーチストが自由に音源データを出品販売できる「iTunes Store」というマーケットプレイスをセットにしたビジネスモデルによって成り立っています。さらに現在では「iPhone」と「App Store」という組み合わせにより、同様のビジネスモデルを携帯情報端末の分野でも展開しています。アップルは既にパソコンや携帯端末を売るだけのメーカーではなく、コンテンツビジネスにおいてもレコード会社やソフトウエア会社を差し置いて、世界市場の重要なポジションを獲得することに成功しています。

《アップルの売上構成(2008年10月~12月末)》
前年比
・デスクトップパソコン………………… 10億4,300万ドル( -31%)
・ノート型パソコン……………………… 25億1,100万ドル( +23%)
・iPodの販売……………………………… 33億7,100万ドル( -16%)
・iPod関連サービス(音楽販売等)…… 10億1,100万ドル( +25%)
・iPhoneの販売と関連サービス………… 12億4,700万ドル(+417%)
・他のオプション製品……………………  3億7,800万ドル(  -1%)
・他のソフトウエア製品等………………  6億  600万ドル(  -4%)
────────────────────────────── 
●全体の売上高………………… 101億6,700万ドル( +6%) 
※出所:同社決算資料より

2009/12/20

書店経営

つい十年前まで、百貨店やショッピングモールで集客力のあるテナントと言えば「書店」が筆頭に挙げられていました。特別な目的はなくても、とりあえず書店に行けば空いた時間を潰すことができるし、偶然に立ち読みした中で気に入った本に出会うこともできました。ビジネスマンにとっても、新しい知識を収集する場として書店は欠かせない存在です。

ところが最近では、その書店が“つまらない場所”と感じることも多くなっています。どの店も品揃えは、新刊のベストセラーが中心で代わり映えしません。目的の本を探そうとすれば、アマゾンのようなオンライン書店のほうが便利であるし、ユーザーが投稿した書評も充実しています。これなら、わざわざクルマで書店まで行く必要もないだろうと思う人が増えているからです。

公正取引委員会の報告によると、全国に存在する書店の数は、2001年には21,000店だったのが、2008年には16,000店にまで減少しています。一年間に閉店する書店が 1,200店あるのに対して、新規開店するのは 390店と、その数値だけをみれば完全な斜陽産業です。ただし書店の総売場面積は逆に拡大している傾向にあります。それが意味するのは、売場面積が拡張できない中小の書店は次々と閉店へ追い込まれて、資金力のある大手書店だけが売場面積を広げることで生き残りを賭けているという状況です。

しかし大手でさえも安泰というわけではありません。出版業界は全体でベストセラーが生まれにくくなっており、売上の不振分は新刊本を増やすことで補おうとする構造に変化しています。しかし国内で新刊本の出版点数が増えているにも拘わらず、その総販売部数は十年前より2割近く落ち込んでいます。

《書籍の総販売部数と新刊本点数の推移》
         新刊点数   販売部数
1996年  63,054点  91,531万冊
1999年  65,026点  79,186万冊
2003年  72,055点  71,585万冊
2005年  76,528点  73,944万冊
2007年  77,414点  75,542万冊
※出所:書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状(公正取引委員会)
新刊は増えても販売部数は減少している傾向

それでも書店の経営が維持できるのは、書籍の流通は委託販売制が基本で、店頭に並べても売れなかった本は返品できるためだが、その返本率は4割を超えています。つまり10冊の本を刷っても4冊が売れ残るという状況は環境に優しくないし、出版社にとっても効率の良いビジネスとは言えません。しかもこの数字にはベストセラー本も含まれているため、大多数のヒットしなかった本に絞ってみれば更に返本率は高くなっています。発売後に売れなかった時のリスクは出版社が背負うことになるが、必ずしもその本の内容が悪いというわけではありません。読者層が限られてしまうビジネス書の話でいえば、1万部売れる本は希なヒット作で、平均的な売れ行きは3千~5千部といったところです。すると、著者に入る印税収入は30~50万円にしかならず、本を書くことだけで生計を立てられるのは、プロの中でもごく一部の人達に限られてしまいます。

そこで見直されているのが「書籍」そのものの規格や形式です。読者にとっても、分厚くて重い本を通勤カバンに入れて持ち歩きたいとは思わないし、読み終えた本を収納しておくスペースも自宅に確保することは難しくなっています。本の読み方にしても、忙しいビジネスマンは購入してすぐに読むのではなく、有意義な知識や情報をストックしておいて、必要な時に検索して活用したいというニーズへと変化しています。書籍の電子化は避けられない流れだが、その時の書店、出版社、著者の役割や収益モデルは従来と異なる形になり、新たな知識の売り方ができるようになります。

2009/12/16

クラウドコンピューティングの収益モデル

インターネット経由でソフトウェアやサービスを利用するクラウドコンピューティングが、企業向け情報システムでも活用され始めています。ソフトウエアをオンラインレンタルする業者は、以前からも「SaaS(Software as a Service)(サース)」または「ASP(Application Service Provider)」とも呼ばれ、目新しいものではありません。

日本でサースが急速に普及するきっかけを作ったのが日本郵政です。2007年10月の発足に合わせ、顧客情報管理システムにサース方式を導入しました。サースの先駆者とも言える存在の米セールスフォース・ドットコムのシステムで現在、全国1200局、5000人超の社員が利用しています。これまでネット経由で重要データーをやり取りすることによる、データーの不正使用や情報漏洩といった不安を、日本郵政という公共部門の大規模な導入により企業側の認識を一新させました。

ソフト会社はサースの新サービスを続々と提供し始めています。その主役として注目されているのが「セールスフォース・ドットコム」のようなクラウド型で業務アプリケーションを提供しているソリューション企業の存在です。パソコンメーカーやソフトウエア会社にとって、クラウドコンピューティング時代の到来は、「製品(モノ)を販売して収益を稼ぐ」というビジネスの根底を覆されることになります。生き残るには、自らもクラウド型のビジネスモデルに転換することが重要です。グーグルやヤフーが提供しているサービスは、ソフトウエアをパッケージ製品として売るのではなくて、オンライン機能として提供することが既に可能になっていることを意味しています。

景気減速の影響で、大幅なコスト削減が見込めるサース方式を利用する流れはより加速します。企業が自社で情報システムを構築し、運用するには多額の資金が必要です。利用する企業側の意識としては、ソフトウエアにかけるコストは会社の規模が成長(または縮小)するペースに合わせた月々の変動費(利用人数×利用料)として賄っていきたいというニーズが強いのです。1ユーザーあたりのソフトウエア利用料が月額5千円として、社員が100名の会社なら年間にかかるコストは600万円です。ハードとソフトウエアは進化が留まることなく、すべて自前の設備として導入していったのでは過大投資になります。クラウドコンピューティングを活用すれば、サーバーの購入、新機能の追加によるソフトのバージョンアップ料や、システム管理のための人件費などはかかりません。社員の数が増えても契約コースの変更だけで済むため、経営者はIT投資コストを一定の水準に保ちながら、事業を拡大していくことが可能です。初期投資も少なく、社員数に応じた利用料でシステムを使えるため、資金余力が乏しい中小企業などで移行する流れは必然です。



ソフト会社やサースの提供元となるデータセンターを運営するシステム開発会社にとっては、事業拡大の好機とも言えます。ソフトは自前で所有せず利用するもの。市場拡大に合わせ、数年後にはこのサース方式の考え方がIT業界の常識となっているでしょう。

■セールスフォース
http://www.salesforce.com/

同社の主力商品は、社名が示す「Salesforce(セールスフォース)」という企業向けのグループウエア。各社員の営業活動が管理できる機能(日報管理)や、顧客情報や商品情報のデータベース、売上予測や経営指標の分析などができる総合的な営業支援ルーツになっています。

《セールスフォースが提供するオンライン機能》
●営業支援機能(セールスフォースオートメーション)
●カスタマーサービス&サポート機能
●代理店管理機能
●マーケティング支援機能
●コンテンツ管理機能
●アイデア管理機能
●顧客分析機能
●その他、業種別のアプリケーション

セールスフォースの収益構造は、ソフトウエアを販売するのではなくて、機能をオンラインで提供することにより利用料を徴収する仕組みです。その料金体系は1ユーザーあたり月額1千円~の設定で、利用したい機能によって月額3万円/1ユーザーまでの契約コースが選択できます。アプリケーションとデータはすべてセールスフォース側のサーバーで管理されているため、契約企業の側ではソフトのインストールやデータを保守するためのセキュリティ対策などの負担から解放されます。セールスフォースのオンライン機能を導入している企業は世界で5万1千社以上です。

2009/12/15

クラウドコンピューティングが意味するもの

「Web2.0」というキーワードが流行語になったのは2006年のことです。そのブームは去ったかのように思われているが、実際の技術は現在も著しい進化を続けており、それが「クラウドコンピューティング」というコンセプトへと昇華してきました。

ひと昔前までは、パソコンを購入してもそれだけではただの箱で、ソフト無しでは使い物になりませんでした。ADSLや光ファイバーが一般家庭に普及しネットに常時接続されると、パソコンは個人のものから複数で使用するものへと利用方法が変化してきました。お互いのプライバシー配慮からパソコン内のディスクにはできるだけ自分のデータを置かない利用方法に変化してきたのです。

現在では、ネットに繋ぐだけでユーザーが必要としている機能の大半を利用できるようになっています。データを保存しておくスペースでさえも、自分のパソコン内ではなくて、オンラインサービス上に用意されていることが多いのです。電子メールソフトでいえば、個人ユーザーの7割以上が「Yahoo!メール」や「Gmail(グーグル)」などのオンラインサービスを使用しています。個人ユーザーはポータルサイトの無料サービスを利用することで、無意識のうちに先進的なデータ共有の方法を身につけました。

電子メールに限らず、本格的なビジネスソフトもオンラインサービスを使えば、ワープロ、表計算、プレゼンテーションの機能が無料で提供され、マイクロソフトのワード、エクセル、パワーポイントで作成したファイルを読み込んだり、編集することも可能です。ファイルはサーバー上に保存されるため、わざわざ同じパソコンを持ち歩かなくても、ネットが使える環境であれば、どこからでも自分のデータにアクセスすることが可能です。しかも、これらのオンラインソフトは新しい機能が随時追加されて進化しています。さらに使い勝手がよくなれば、高価なオフィスソフトをわざわざ購入する人は少なくなるでしょう。

今後はネットの高速化や安全性の向上で市場拡大がさらに加速するでしょう。ホームページの閲覧や電子メールの送受信ばかりでなく、各ユーザーのパソコンを動かすためのソフトやデータを保存するディスクも、オンラインサービスを利用することが主流になっていくでしょう。さらには、ポータルサイトのサーバーが持つ CPUやメモリーを各ユーザーが遠隔から仮想マシンとして利用できるサービスも実用化されています。これからのネットユーザーは、わざわざ高性能のパソコンを所有(購入)する必要さえありません。新興のネットベンチャー達は、次々と追加されるポータルサイトの新サービスに対抗するのではなく、彼らが張り巡らしている雲の下で、上手に立ち回ることに成功の鍵が隠されています。

2009/12/14

クラウドビジネスが変革する業界地図

情報の在りかはWeb上。情報を操作するソフトウェアの在りかもWeb上。パソコンや携帯端末はWebにアクセスする窓にすぎません。いまやグーグルやヤフーなどが無料で提供している各種サービスを使うだけで快適なインターネットライフを送ることが可能となりました。わざわざソフトウエアを購入して自分のパソコンにインストールしなくても、電子メール、チャット、スケジュール管理、写真アルバムなど、個人ユーザーが必要と感じている機能の大半はWebから調達できるのです。

ソフトウエアが他の商品と異なるのは、一度作った製品は劣化することがなく複製することも容易な点です。優れたソフトウエアが一つあれば、それを世界中の人が共有することも可能です。ユーザー1人あたりに換算したソフトの単価は小額になり、開発費用を広告収入で賄うことができれば、ユーザーには無料で公開するというサービスモデルも成り立ちます。このような動きは個人向けソフトばかりでなく、業務用ソフトの分野にも波及しています。業務用ソフトをA社、B社、C社が別々に開発するよりも、3社が共有することを前提にすれば、1社あたりの開発費は三分の一で済みます。共有するパートナーが5社、10社と増加すれば、さらに負担は小さくなります。

このような発想によるIT業界の系列化は「クラウドビジネス」と呼ばれています。インターネットで繋がっている巨大なサーバー群を大きな「クラウド=雲」に見立てて、遠隔から同じ機能を共有したり、レンタルするイメージを表しています。ユーザーは無意識のうちに、グーグルやヤフーといった大きな雲にぶら下がることで便利で豊富なサービスを利用しています。インターネット中心の情報処理形態の典型例です。

消費者にとっては便利な時代が来たが、その反面、存続の危機に陥っているのが各種のパッケージソフトを開発、販売してきたソフトウエア・メーカーです。パソコン量販店の陳列棚をみてもわかるように、ソフトウエア製品の販売スペースは縮小の一途を辿っています。特殊なものを除いた定番といえるものについては無料が常識になりつつあります。

インターネット黎明期からサーバー機能の共有やレンタルができる仕組みは色々と登場しているため、クラウドといっても特別に新しいものではないが、クラウドビジネスは単なる構想ではなく、現実として急速に世界に浸透しつつあります。クラウドビジネスは、従来の情報技術産業の構造を変えるとともに、新たな業界再編を促すでしょう。