2010/03/03

格差の助長

日本の人口は現在約1億2千万人ですが、今後は減少していきます。企業にとっては、消費者(顧客)の数が現在以上に増加しないことを意味しています。富裕層向けビジネスの企業戦略は、顧客数を増やすことより、客単価の高い優良な顧客だけを選別して質の高いサービスを提供していこうとするものです。富裕層の一般的な定義は、資産から負債を引いた「純金融資産」を1億円以上持つ世帯です。2005年の調査では86.5万世帯だった富裕層は、2007年に90万世帯以上に増加しました。

そこで重要になるのが“優良顧客”の定義です。各企業が手掛ける事業や商品の内容によっても異なりますが、銀行では「1億円以上の資産を持つ人達」と捉えており、メーカーや小売業界では、金融資産が3千万円以上あり、購買意欲が旺盛な人達のことを新富裕層として獲得に力を入れています。数字だけをみれば、日本では2割以上の世帯が富裕層に該当することになりますが、「準富裕層」「新富裕層」という言葉は、物やサービスを売ろうとする企業が生み出したマーケティング用語であり、富裕層に憧れる上位大衆層のことを指しています。本物の富裕層といえる1億円以上の資産家は全体の1.7%に過ぎません。

米国カード業界では利用者の信用ランクを「スーパープライム層」「プライム層」「サブプライム層」という三段階で区別しています。米国での「サブプライム層」は貧困者ではなく、年収2万5千ドル以下の世帯を指しており、米国内で約4割の世帯が該当しています。日本の状況に当てはめると、年収3百万円以下の世帯がサブプライム層ということになります。年収3百万円以下の世帯数は給与所得者の38%(約4割)であり、米国と同水準なのです。所得の分布だけをみれば、大きな格差が付いている状況は、日米共通です。クレジットカード業界は、先進国では国民一人あたりが既に3枚以上のクレジットカードを保有しており、これ以上の発行枚数が見込めないことに加え、カード債権の貸し倒れ率は5%以上と高いことから、信用ランクの低い利用者の勧誘は抑え、優良顧客の獲得に力を入れたいという思惑があります。カード業界に限らず、物やサービスを提供する企業では、信用ランクの低いサブプライム層の顧客よりも、プライム層とスーパープライム層の獲得に力を入れようとする動きが顕著になり、米国企業では、それがサブプライム問題から学んだ解答だという捉え方をしています。日本の消費者信用市場では、貸金業規制法等の改正も含めた市場の変化に伴う信用収縮・返済不能問題等により、年収3百万円以下の人達に対する審査条件はさらに厳格化されていきます。
さらに税制の問題があります。税制は、国家主導で行われる所得の再分配制度であり、格差を縮小するために運用すべきシステムです。しかしながら日米ともに正常に機能していません。

日本は、2000年から漸次行われてきた法整備で、格差が助長されました。
・00年 累進課税の引き下げ〔課税所得5000万円超対象〕  60%→37%
・03年 相続税・贈与税の最高税率引き下げ       70%→50% 
・05年 所得税・住民税の最高税率引き下げ       88%→50%   
・07年 定率減税の廃止〔課税所得200万円未満〕      5%→10%
・その他、租税による不平等度の改善効果   4.2%(86年)→ 0.8%(01年)

米国は、IRS (The Internal Revenue Service アメリカ合衆国内国歳入庁)の統計で状況を確認することができます。
SOI-Tax Stats-Taxpayers with Top 400 Adjusted Gross Income
総国民所得に占める上位400グループの割合は、1992年の0.52%から2007年の1.59%に増加しています。1993年の上位400グループの所得は確定申告書類平均で4600万ドルでした。これらのグループは、2006年と2007年間に所得が31%増加しています。1993年から2007年の間、このグループの平均所得は8倍に増加したのです。このグループの実効税率は、1995年の段階では約29%でした。クリントン政権の末期では22%に低下、ブッシュ大統領の下で実効税率は、2001年から2007年の間でさらに6%低下したのです。

日米ともに税制の法整備は、富裕層の既得権益を保護するための税率変更に他なりません。いったん下流の「負け組」になれば、容易には這い上がることができない税制度が構築されているということです。「構造改革」を標榜した小泉政権は、大衆を没落させ一部の富裕層が優遇される社会を創りました。富を一極に集中させるための制度改革であり、民営化は国富を外資に移行するための政策でした。それが資本主義だと言われればそれまでですが、知らぬ間にデフレ経済で我慢を強いられた挙げ句、中流層以下にあった資産が没収されていったも同然なのです。サブプライム問題と、スーパープライム層を対象とした富裕層ビジネスは裏表の関係なのです。

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