2009/12/27

学歴デフレ

深刻な不況によって企業が大幅なリストラを行なう際、経営者は極力コストを抑えて生産性を高める手法を探ります。作業の効率化や自動化、または外注などのアウトソーシングによって、会社再生を図ります。1990年以降にみられる人員削減の傾向は、後に業績が回復しても「再び同じ類の職種を雇い戻すということはない」という点です。80年代までは失業者の中でブルーカラーの占める割合が多かったが、90年代からはその割合が逆転しています。その理由として、企業のリストラが中間管理職を対象にしはじめたことに加えて、パソコンやインターネットが普及してきたことによる影響が大きいのです。いままで存在していた職種が消滅することを意味しているので、単なる雇用調整ではないことを“働く側”も意識しておくべきでしょう。

現在、世界の労働市場で起こっているのは、高学歴者(大卒者)の失業率が高くなっている傾向で、「学歴インフレ」と呼ばれています。本来、学歴が高い人ほど優秀で新しい仕事を習得する能力に長けているため、低学歴者よりも失業率は低いはずです。ところが、大卒者の数が増えてくると労働市場では学歴の価値が下落し、自分が希望する職種や収入が得られる企業へ就職できないという状況になります。このような傾向は、日本に限らず教育熱がヒートアップしている中国や韓国でも顕著に表れています。経済成長の真っ直中にある中国でさえも、大学を卒業しても就職できない若者の数(無職率)が15%を超えて社会問題になっています。大学新卒者に限らず、高学歴者の失業率が高まっている傾向は1990年代以降の米国からも見て取れます。


大学、短期大学、高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査 (厚生労働省)

2008年3月卒の就職率は、96.9%です。まだ世界不況が深刻化する前だったことと、団塊世代の大量退職による求人枠が増えたこととが理由として考えられます。しかし、厚労省が公表している就職率は「就職希望者数」に対する「就職内定者数」の割合を算定したものです。全体の30%を占める「就職を希望しない学生」が含まれていません。大学生の心理にも、自分の学歴に対するプライドや理想があり、それに見合う職業や企業を見つられなければ、あえて「今年は就職しない」という選択肢もあります。

企業が優秀な人材を求めていることは昔も今も変わりません。求職者がウリにする自身の経歴と、企業側が求める人材のスキルとの間でミスマッチが起きています。これからは、自営業、正社員、非正社員という既存の枠を取り払った働き方が主流になっていきます。会社に雇用されていると言っても、自分のことを「労働者」と意識している人は次第に少なくなり、それよりも「個としての労働者」と捉える傾向が強くなっていきます。その一方で、できるだけ同じ会社に長く勤めたいと考える矛盾もあります。会社に就職するというより、一つのプロジェクトについていると考えたほうが実態をよく表しているといえるかもしれません。

[ 付記 ]
高学歴の人ほど就職は有利というのが世間の通念だが、大学院を出るとかえって就職は難しくなります。大卒ならつぶしがきくが、大学院で専門を身に付けると、人材としては扱いにくくなるからです。理系でも、博士課程まで行ってしまうと、一般企業への就職は難しくなります。

環境適応力と変化適応力は、二律背反の関係です。環境に適応しないと、滅亡するか、あるいは周縁で冷や飯を食うことになります。特殊な環境に適応し、中心に近づけば近づくほど、環境の変化に対応することができずに、滅亡するリスクを抱えます。

大企業の中に埋没すればするほど、その企業が倒産した時、その企業と運命をともにしなければならないリスクが増加します。研究職を手に入れることができず、勤務していた予備校も少子化で倒産し、タクシードライバーとして生活している博士号所有者はたくさんいます。自分の専門と一緒に心中してしまった人たちです。得意分野に特化すればするほど、その専門と運命をともにしなければならないリスクが増加します。

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