日本の人口は現在約1億2千万人ですが、今後は減少していきます。企業にとっては、消費者(顧客)の数が現在以上に増加しないことを意味しています。富裕層向けビジネスの企業戦略は、顧客数を増やすことより、客単価の高い優良な顧客だけを選別して質の高いサービスを提供していこうとするものです。富裕層の一般的な定義は、資産から負債を引いた「純金融資産」を1億円以上持つ世帯です。2005年の調査では86.5万世帯だった富裕層は、2007年に90万世帯以上に増加しました。
そこで重要になるのが“優良顧客”の定義です。各企業が手掛ける事業や商品の内容によっても異なりますが、銀行では「1億円以上の資産を持つ人達」と捉えており、メーカーや小売業界では、金融資産が3千万円以上あり、購買意欲が旺盛な人達のことを新富裕層として獲得に力を入れています。数字だけをみれば、日本では2割以上の世帯が富裕層に該当することになりますが、「準富裕層」「新富裕層」という言葉は、物やサービスを売ろうとする企業が生み出したマーケティング用語であり、富裕層に憧れる上位大衆層のことを指しています。本物の富裕層といえる1億円以上の資産家は全体の1.7%に過ぎません。
米国カード業界では利用者の信用ランクを「スーパープライム層」「プライム層」「サブプライム層」という三段階で区別しています。米国での「サブプライム層」は貧困者ではなく、年収2万5千ドル以下の世帯を指しており、米国内で約4割の世帯が該当しています。日本の状況に当てはめると、年収3百万円以下の世帯がサブプライム層ということになります。年収3百万円以下の世帯数は給与所得者の38%(約4割)であり、米国と同水準なのです。所得の分布だけをみれば、大きな格差が付いている状況は、日米共通です。クレジットカード業界は、先進国では国民一人あたりが既に3枚以上のクレジットカードを保有しており、これ以上の発行枚数が見込めないことに加え、カード債権の貸し倒れ率は5%以上と高いことから、信用ランクの低い利用者の勧誘は抑え、優良顧客の獲得に力を入れたいという思惑があります。カード業界に限らず、物やサービスを提供する企業では、信用ランクの低いサブプライム層の顧客よりも、プライム層とスーパープライム層の獲得に力を入れようとする動きが顕著になり、米国企業では、それがサブプライム問題から学んだ解答だという捉え方をしています。日本の消費者信用市場では、貸金業規制法等の改正も含めた市場の変化に伴う信用収縮・返済不能問題等により、年収3百万円以下の人達に対する審査条件はさらに厳格化されていきます。
さらに税制の問題があります。税制は、国家主導で行われる所得の再分配制度であり、格差を縮小するために運用すべきシステムです。しかしながら日米ともに正常に機能していません。
日本は、2000年から漸次行われてきた法整備で、格差が助長されました。
・00年 累進課税の引き下げ〔課税所得5000万円超対象〕 60%→37%
・03年 相続税・贈与税の最高税率引き下げ 70%→50%
・05年 所得税・住民税の最高税率引き下げ 88%→50%
・07年 定率減税の廃止〔課税所得200万円未満〕 5%→10%
・その他、租税による不平等度の改善効果 4.2%(86年)→ 0.8%(01年)
米国は、IRS (The Internal Revenue Service アメリカ合衆国内国歳入庁)の統計で状況を確認することができます。
SOI-Tax Stats-Taxpayers with Top 400 Adjusted Gross Income
総国民所得に占める上位400グループの割合は、1992年の0.52%から2007年の1.59%に増加しています。1993年の上位400グループの所得は確定申告書類平均で4600万ドルでした。これらのグループは、2006年と2007年間に所得が31%増加しています。1993年から2007年の間、このグループの平均所得は8倍に増加したのです。このグループの実効税率は、1995年の段階では約29%でした。クリントン政権の末期では22%に低下、ブッシュ大統領の下で実効税率は、2001年から2007年の間でさらに6%低下したのです。
日米ともに税制の法整備は、富裕層の既得権益を保護するための税率変更に他なりません。いったん下流の「負け組」になれば、容易には這い上がることができない税制度が構築されているということです。「構造改革」を標榜した小泉政権は、大衆を没落させ一部の富裕層が優遇される社会を創りました。富を一極に集中させるための制度改革であり、民営化は国富を外資に移行するための政策でした。それが資本主義だと言われればそれまでですが、知らぬ間にデフレ経済で我慢を強いられた挙げ句、中流層以下にあった資産が没収されていったも同然なのです。サブプライム問題と、スーパープライム層を対象とした富裕層ビジネスは裏表の関係なのです。
2010/02/21
急増する住宅ローン破綻と金融機関
全米抵当貸付銀行協会(MBA)19日の発表によると、住宅ローン全体に占める返済延滞期間が90日以上のローンの割合は全体の5.09%に増加した。ローンの返済が90日間滞ると、銀行は通常、物件の接収に向けた手続き開始する。差し押さえの対象となったローンの割合は4.58%に増加。2月19日 ブルームバーグ 米国では差し押さえに直面する可能性のある住宅は2009年10-12月(第4四半期)に過去最高水準に増加した。
格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は1日、米商業不動産市場について、空き店舗率が高止まりし、賃貸料が下落する中、最悪期は脱していないとの見方を示し、多額の損失を生み、金融システムを脅かす恐れがあると指摘した。S&Pはリポートで「銀行が抱える商業不動産へのエクスポージャーの影響はまだ完全に表れていない」としている。住宅建設や商業不動産建設セクターでは既に問題が顕在化しているが、金利が低く、債権回収に十分なキャッシュフローがある現状では、商業不動産ローンや多世帯住宅セクターでは影響が認識されていないとの見方。金利が上昇し、賃貸料がさらに落ち込めば、こうしたセクターでも差し押さえが増加し、価格が一段と下落するとの見方を示した。2月1日 ロイター 米商業不動産市場、一段と悪化の可能性=S&P
2010年の米国銀行破綻は200行以上と予測されています。経済全般の落ち込みは各種統計指標に現れます。経済の弱体化は、失業率の上昇、住宅価格低下とローンのデフォルトとなり、銀行の破綻が加速していくのです。サブプライム・ローン市場の影響はプライム・ローン市場から商業用不動産の分野に波及しようとしています。商業用不動産に波及した場合、今後数年間で数百以上の銀行の倒産が発生すると予想されています。1989年、S&L危機のピーク時の破綻行は534行でした。金融の問題が再び注視されるようになるのは時間の問題であり必然です。
給与カットで住宅ローンが返済できず、マイホームを手放す人が都市部で目立っている。東京、大阪、名古屋の3地裁が2009年度上期(4~9月)に扱った住宅など不動産の競売件数は、07年度下期の約2倍。不動産業界によると、少しでも高く売ろうと「任意売却」を選ぶケースも増えている。不動産鑑定会社「三友システムアプレイザル」(東京)によると、3地裁が09年度上期に扱った土地、建物、土地付き建物、マンションの競売件数は計5271件。08年度の下期より525件多く、2704件だった07年度下期の約2倍に増えている。1月11日 asahi.com 住宅ローン滞納、増える任意売却 競売よりも傷浅く
日本でも給与所得は減少の一途を辿り、失業率は5%で高止まりしています。収入は今後も減り続けることは避けられず、ボーナスの支給が出来ない企業がさらに増加していくのです。住宅ローン破綻が急増し、競売が急増すれば住宅価格は一層の下落を見せます。住宅ローンの条件変更で先送りしたとしても、民主党がそのような状況に陥る政策を採り続ける限り破綻は避けられません。日本版サブプライムローン問題も進行しているのです。
株価は予想収益の割引現在価値を反映します。企業にとっては収益がただ伸びるだけでは不十分であり、コンスタントに伸び率を維持しなければならないという強迫観念を促します。小さな企業なら食指を動かす規模のビジネスチャンスは、大企業には食い足りなくなります。企業の規模が大きくなったことと引換に、小規模の市場に参入する能力を喪失しているのです。この能力喪失は経営資源の変化ではなく、価値基準の変化です。大手銀行で収益を拡大してきたのも、損失を拡大してきたのも投資銀行部門でした。公的資金の注入を受けた際、投資銀行業務を縮小し、リスクを軽減させ不良債権処理による経営健全化を目指すのが本来の企業の姿です。しかし、大手銀行は規制回避のため公的資金を返済し、再び短期的な収益確保の為にリスクの高い投資銀行業務の拡大を選択をしました。
米国の最大の関心は、米国債を長期・安定的に外国に買わせることにより、財政負担を海外の国に付け替えることにあります。中国が米国債購入額を減少させる政策に転換した現在、米国債の安定消化に向けた政策が採られようとしています。一つはボルカールールを実施し、米銀に米国債を買わせることです。ボルカールールが導入されると、商業銀行は投資銀行業務ができなくなるので、海外のドルを国内に還流させる方向に動きます。89年に採用された手法と同様、余剰資金を長短金利差による長期債購入に充てる方向に誘導させ、金利差益を原資に不良債権を償却していくのです。米国債の大量発行による懸念は、米銀の強力な購入で払拭されます。もう一つは、日本に米国債を買わせることです。日本の年金資金を海外運用に充てる案や郵貯銀行の資金を米国債に充てる案が聞こえています。日本は自国の財政より、米国の財政を優先する選択を自民党政権から継続しているのです。結果、膨大な不良債権が日本経済に蓄積されていきます。
問題は、米国の本質的な問題が噴出し、出口戦略の発動はやっぱりダメだったとなるのがいつになるのかということです。89年の不良債権処理は5年で収束しましたが、今回の危機は当時より破壊力が大きく、まだ序盤です。長期に渡って蓄積されたバブルは数年で縮小するものではなく、アメリカの景気が好転するのは期待できません。時間をかけながら、破綻の影響は他の市場や金融機関に広がり、最後は現行の金融システムが危機的な状態になるところまで進んでいくのです。
2010/02/20
出口戦略の発動
米銀の手元保有する現金は最大1兆2900億ドル、企業向け融資は1兆3200億ドル。米経済における借り手からの資金需要低迷と、当局が金融危機の再来予防を目的に金融機関に一段の手元流動性を要請するとの懸念から、銀行はより多くの現金を保有する状況となっている。2月16日 ブルームバーグ
米シティとBOA、JPモルガンの現金保有が拡大-利益率低下の恐れ
米連邦準備制度理事会(FRB)の17日終了週のバランスシート(貸借対照表)は、総資産が前週比0.9%増加して2兆 2800億ドルとなった。住宅ローン担保証券(MBS)の保有額が増加し、1兆ドルを突破した。2月18日 ブルームバーグ
FRB総資産:2.28兆ドルに増加、MBS購入で-週間統計
急激な物価上昇でなく、わずかな物価上昇なら、ごく当たり前の経済状態です。不況から脱出するためには、高めの物価上昇率が必要なのです。現在、銀行には過剰流動性による資金供給があるものの、金融引き締め策が採られつつある現状では、融資や市場投資にもお金がまわらず、企業は利益が上がらない状態に陥っています。米連邦準備理事会(FRB)は18日、公定歩合を現行の0.50%から0.75%に引き上げると発表しました。FRBの政策は金融市場の安定に向けられており、実体経済への効果よりも過大流動資産の吸収に優先度を置いています。利上げは経済活動を冷やし、財政赤字にはマイナスに働きますが、出口戦略発動が有効と総合的に判断したのです。米国債の購入がFRBによる国債買い入れ停止により外国頼りとなった今、米銀による米国債の購入増加も考慮されているのです。
2月19日日経 日銀総裁、国債下落のリスク警戒 インフレ目標に難色
デフレとは、供給に対して需要が不足している状態であり、インフレはその逆です。需要回復の過程における物価上昇は必然であり、物価上昇のコントロールが中央銀行の使命です。財政改善には、増税による借金返却のためのインフレが必要なのです。景気を冷やし、経済を安定させる為の増税です。しかしインフレが来なければ借金返却のメドが立たず、増税は景気を過度に冷やし、現在以上の不況を進行させます。
ハイパー・インフレは現実に起こりうる問題です。市中に出回るマネーの必要量が何倍もある場合においてのみ発生します。通常であれば物の値段を100倍にしても、誰も買えないので無意味な値付けは無視されます。現在、量的緩和によって流動資金が銀行に滞留していますが、やがてインフレが現実味を帯びてくると国債暴落の可能性が上昇するので、必然的に銀行は国債の購入を止め、現金比率を高めるようになります。ある時点で国民のインフレ期待が不信用から信用に急転した時に、インフレが現実化します。銀行に預金として滞留していた現金は一挙に流出し、インフレスパイラルが急速に進行していく可能性があるのです。逆にいえば、市中に出回る現金の量が増えなければ、インフレにはならないのです。
過去の歴史でハイパー・インフレが発生したのは、その国の経済が根本的に破壊されるような例外的な事態が生じた場合です。例外的とは、地震・資源・戦争・食料等の問題です。一国の経済が破壊された時、暴走するインフレ回避は不可避です。不況であれば、ハイパー・インフレは来ないというのは、妄想にすぎません。
2010/02/18
大統領たちの経済
経済学は、有限な資源から、いかに富を生産し配分するかを研究する学問で、究極の課題は貧困撲滅です。最初は、アダム・スミスと、その後継者達による古典派だけが存在していました。ケインズ理論が登場したのは1930年代です。
1929年、NY株式市場での大暴落と、その後の世界大恐慌の時代は、深く歴史に刻み込まれています。1933年3月4日、第32代米大統領に就任したフランクリン・デラノ・ルーズベルト(FDR)はニューディール政策を実施しました。公共事業拡大を中心とした、政府による経済への介入です。しかし、一連のケインズ政策をもってしても失業者は急激に減少せず失業率は高いままで推移しました。効果があまりにも小さすぎたので、不況からの脱出は成功しなかったのです。最終的に経済を救ったのは第二次大戦による財政拡大でした。
世界を巻き込んだ二つの世界大戦が終結した時、主要先進国は戦勝国も敗戦国も、戦禍のために大半の生産力を失っており、戦後世界の復興需要に応えることができたのは、無傷のまま大量生産体制を保持していたアメリカだけでした。結果、アメリカは超貿易黒字国となり、世界最大の対外債権国と同時に、ドルは世界の基軸通貨としての地位を得るのです。当時のアメリカ経済は圧倒的に強く、1960年代はじめまで、アメリカ経済の黄金時代と称されたのです。1963年11月22日に第36代大統領として就任したジョンソンまでの時代です。
1950年の朝鮮戦争を皮切りに、ベトナム戦争他、多くの米ソ代理戦争が繰り広げられます。この広範かつ長期化した戦争特需の恩恵を受けたのが、日本でした。日本は急速に重厚長大産業を成長させ、1970年代には西ドイツとともに、アメリカの国際競争力に勝るとも劣らないほどの経済力を身につけていきます。
経済学の世界では、①固定相場制②自由な資本移動③独立した金融政策のうち、同時に成り立つのは二つだけとするケインズ派が主流でした。通常の経済状況下で発生した景気変動による小規模の景気後退は、ケインズ的な処方が効果を発揮し、景気後退から脱出することは可能でした。ケインズ派の絶頂期です。
1969年1月20日、第37代大統領として就任したリチャード・ミルハウス・ニクソンの時代に世界は転機を迎えます。1971年8月15日、ドル・金の交換制を廃止すると宣言したニクソンショックです。金が裏付けするドルに、他の通貨が固定相場で結びつく「ブレトン・ウッズ体制」は崩壊し、変動相場制に移行するのです。パラダイムの転換です。
変動為替制で、自由な資本移動(グローバル化の大前提)と、金融政策の優位が実現し、財政政策は為替相場の変動により効果が減殺されるようになりました。加えて1970年代の二度の石油危機で、高インフレと高失業率が進行するスタグフレーションに陥り、財政赤字も膨らみます。財政政策を主軸とする伝統的なケインズ政策は、毒薬のごとき効果を発揮して経済を破壊しました。ケインズ派の影響力が薄れ、政府介入を排した自由市場の効用を説く新しい古典派経済学が台頭した背景です。
1981年1月20日、第40代大統領として就任したロナルド・レーガンでアメリカは転機を迎えます。1981年に発表した経済政策-レーガノミックスです。この政策の柱は、①歳出削減を行い、②減税による貯蓄・投資を拡大し、③規制緩和によって小さな政府を実現し、④マネーサプライを管理してインフレの沈静化を図ることでした。「税率引き下げで税収が増える」という特異な理論は外れ財政赤字は膨らみ、その一方で、「強いアメリカ」を標榜し、極端なまでに軍事費を増大させました。結果、貿易赤字と財政赤字の双子の赤字は急拡大しました。しかしながら、1981年における世界経済の状況は、先進国では激しいスタグフレーションに見まわれ、発展途上国では対外債務が激増していた状態でした。アメリカの財政赤字拡大がなければ資本主義経済は崩壊していたかもしれません。
この時期からアメリカは実質金利を引き上げ、海外からお金を呼び込む政策に転換します。内外金利差の拡大による外国資本流入により、経常収支の赤字が拡大しているにもかかわらず、ドル高になるという現象が生じます。ドル高・高金利の継続は、輸出は停滞、輸入が増加し、貿易収支赤字は拡大します。国内製造業の価格競争力は低下し、資本や労働などの生産要素は製造業から非製造業へとシフトせざるをえません。製造業からサービス業への生産構造の転換です。巨大消費国としての性格を加速度的に強めていくのです。
アメリカの過剰流動性増加は、世界各地でバブルを引き起こしていきます。1980年代後半、日本での株と土地の異常な上昇。1994年、メキシコをはじめとする中南米バブル。1997年、アジア通貨危機。1999年、ITバブルなどです。
リスクとは、将来の不確実性であり、結果として起こりうる経済的損失の可能性の追求です。1997年のノーベル経済学賞を受賞した、マイロン・ショールズとロバート・マートンは、株価が幾何ブラウン運動に従うものと仮定し、伊藤清博士が生み出した確率微分の理論を用いて、1970年代はじめにブラック=ショールズ公式を導くことに成功しています。この理論の登場により、金融理論が経済学の枠組みから飛び出し、金融工学という新しい分野を開拓したのです。1980年代の金融技術の利用は、新商品開発により利益を増加させることが中心でした。情報システムの整備はデータ収集を容易にさせ、数理工学の進歩は複雑なコストの最適化問題を可能にしました。ヘッジファンドの影響力が拡大していくのはこの時代です。1990年代の金融技術は、次々と登場する金融商品のリスクを管理する為の金融商品開発が軸足の中心になっていきます。
21世紀のバブルは20世紀のバブルと異なり、金融技術の発展と基軸通貨国の財政赤字膨張で破壊力がさらに拡大しています。現在進行中の世界金融危機と、中国での資産バブルが、通常の方法で解決するとは誰も思っていません。過去最大の規模ゆえに、米国債のデフォルトに伴う新秩序の形成が予測されるのです。過去のバブルから学べる教訓は、国家は形式的には破綻しなくとも、実質的には破綻することがあり、そのしわ寄せは一般の国民に付け回されるということです。この意味で国家は破綻でき、このプロセスを経ることによって、国家は再生できるのです。ただし、犠牲は全て国民に押し付けられるに違いありません。
時代の流れの方向性は、その時代に生きる人間の大半が何を望むかによって決まります。我々は、水素文明を実現できる理想や理念を創造することによって、多くの人々の共感を獲得し、歴史を創る力を持つことが出来るのです。
1929年、NY株式市場での大暴落と、その後の世界大恐慌の時代は、深く歴史に刻み込まれています。1933年3月4日、第32代米大統領に就任したフランクリン・デラノ・ルーズベルト(FDR)はニューディール政策を実施しました。公共事業拡大を中心とした、政府による経済への介入です。しかし、一連のケインズ政策をもってしても失業者は急激に減少せず失業率は高いままで推移しました。効果があまりにも小さすぎたので、不況からの脱出は成功しなかったのです。最終的に経済を救ったのは第二次大戦による財政拡大でした。
世界を巻き込んだ二つの世界大戦が終結した時、主要先進国は戦勝国も敗戦国も、戦禍のために大半の生産力を失っており、戦後世界の復興需要に応えることができたのは、無傷のまま大量生産体制を保持していたアメリカだけでした。結果、アメリカは超貿易黒字国となり、世界最大の対外債権国と同時に、ドルは世界の基軸通貨としての地位を得るのです。当時のアメリカ経済は圧倒的に強く、1960年代はじめまで、アメリカ経済の黄金時代と称されたのです。1963年11月22日に第36代大統領として就任したジョンソンまでの時代です。
1950年の朝鮮戦争を皮切りに、ベトナム戦争他、多くの米ソ代理戦争が繰り広げられます。この広範かつ長期化した戦争特需の恩恵を受けたのが、日本でした。日本は急速に重厚長大産業を成長させ、1970年代には西ドイツとともに、アメリカの国際競争力に勝るとも劣らないほどの経済力を身につけていきます。
経済学の世界では、①固定相場制②自由な資本移動③独立した金融政策のうち、同時に成り立つのは二つだけとするケインズ派が主流でした。通常の経済状況下で発生した景気変動による小規模の景気後退は、ケインズ的な処方が効果を発揮し、景気後退から脱出することは可能でした。ケインズ派の絶頂期です。
1969年1月20日、第37代大統領として就任したリチャード・ミルハウス・ニクソンの時代に世界は転機を迎えます。1971年8月15日、ドル・金の交換制を廃止すると宣言したニクソンショックです。金が裏付けするドルに、他の通貨が固定相場で結びつく「ブレトン・ウッズ体制」は崩壊し、変動相場制に移行するのです。パラダイムの転換です。
変動為替制で、自由な資本移動(グローバル化の大前提)と、金融政策の優位が実現し、財政政策は為替相場の変動により効果が減殺されるようになりました。加えて1970年代の二度の石油危機で、高インフレと高失業率が進行するスタグフレーションに陥り、財政赤字も膨らみます。財政政策を主軸とする伝統的なケインズ政策は、毒薬のごとき効果を発揮して経済を破壊しました。ケインズ派の影響力が薄れ、政府介入を排した自由市場の効用を説く新しい古典派経済学が台頭した背景です。
1981年1月20日、第40代大統領として就任したロナルド・レーガンでアメリカは転機を迎えます。1981年に発表した経済政策-レーガノミックスです。この政策の柱は、①歳出削減を行い、②減税による貯蓄・投資を拡大し、③規制緩和によって小さな政府を実現し、④マネーサプライを管理してインフレの沈静化を図ることでした。「税率引き下げで税収が増える」という特異な理論は外れ財政赤字は膨らみ、その一方で、「強いアメリカ」を標榜し、極端なまでに軍事費を増大させました。結果、貿易赤字と財政赤字の双子の赤字は急拡大しました。しかしながら、1981年における世界経済の状況は、先進国では激しいスタグフレーションに見まわれ、発展途上国では対外債務が激増していた状態でした。アメリカの財政赤字拡大がなければ資本主義経済は崩壊していたかもしれません。
この時期からアメリカは実質金利を引き上げ、海外からお金を呼び込む政策に転換します。内外金利差の拡大による外国資本流入により、経常収支の赤字が拡大しているにもかかわらず、ドル高になるという現象が生じます。ドル高・高金利の継続は、輸出は停滞、輸入が増加し、貿易収支赤字は拡大します。国内製造業の価格競争力は低下し、資本や労働などの生産要素は製造業から非製造業へとシフトせざるをえません。製造業からサービス業への生産構造の転換です。巨大消費国としての性格を加速度的に強めていくのです。
アメリカの過剰流動性増加は、世界各地でバブルを引き起こしていきます。1980年代後半、日本での株と土地の異常な上昇。1994年、メキシコをはじめとする中南米バブル。1997年、アジア通貨危機。1999年、ITバブルなどです。
リスクとは、将来の不確実性であり、結果として起こりうる経済的損失の可能性の追求です。1997年のノーベル経済学賞を受賞した、マイロン・ショールズとロバート・マートンは、株価が幾何ブラウン運動に従うものと仮定し、伊藤清博士が生み出した確率微分の理論を用いて、1970年代はじめにブラック=ショールズ公式を導くことに成功しています。この理論の登場により、金融理論が経済学の枠組みから飛び出し、金融工学という新しい分野を開拓したのです。1980年代の金融技術の利用は、新商品開発により利益を増加させることが中心でした。情報システムの整備はデータ収集を容易にさせ、数理工学の進歩は複雑なコストの最適化問題を可能にしました。ヘッジファンドの影響力が拡大していくのはこの時代です。1990年代の金融技術は、次々と登場する金融商品のリスクを管理する為の金融商品開発が軸足の中心になっていきます。
21世紀のバブルは20世紀のバブルと異なり、金融技術の発展と基軸通貨国の財政赤字膨張で破壊力がさらに拡大しています。現在進行中の世界金融危機と、中国での資産バブルが、通常の方法で解決するとは誰も思っていません。過去最大の規模ゆえに、米国債のデフォルトに伴う新秩序の形成が予測されるのです。過去のバブルから学べる教訓は、国家は形式的には破綻しなくとも、実質的には破綻することがあり、そのしわ寄せは一般の国民に付け回されるということです。この意味で国家は破綻でき、このプロセスを経ることによって、国家は再生できるのです。ただし、犠牲は全て国民に押し付けられるに違いありません。
時代の流れの方向性は、その時代に生きる人間の大半が何を望むかによって決まります。我々は、水素文明を実現できる理想や理念を創造することによって、多くの人々の共感を獲得し、歴史を創る力を持つことが出来るのです。
2010/02/16
危機に考えるべきことは
サブプライムショックにより、世界各国はいかに自国が米経済に依存していたかを思い知らされ、金融工学が作り出すバーチャルな需要により、無限に金が創造されていたことを知りました。本質的にそこに内在する賭博的な要素が見過ごされていたのです。「規制」はすべからく緩和するのが正しいという結果がアメリカのサブプライム問題であり、わが国の派遣問題でした。
米国の旺盛な国内消費が、製造業を中心とした国の最大の輸出市場となり、世界経済をけん引してきたというのがグローバリゼーションの枠組みです。この構造が崩壊したことにより、各国経済は減速を余儀なくされ、財政支出の拡大で国内景気の立て直しに努力しています。いいかえれば、世界各国で輪転機を回し、国内景気の維持拡大に努めているのです。そのため、現金通貨発行残高は各国で増加しています。
マネタリズムに従えば、量的緩和により貨幣量が増加するので物価が上昇し消費が増加します。しかし、日本ではデフレが進行し、日本経済はどんどん地盤沈下しています。企業の収益が増えても企業の内部留保となり労働者に還元されず滞留しているのです。ゆえに消費が増えず、企業も供給拡大のための投資をしません。奈落の底を脱せず、あえて奈落の底に留まろうとする経済政策の結果です。懸命に汗をかき、まじめに働いている人が、幸せになれないような社会はいい社会とはとてもいえません。われわれは自分の身は自分で守るしかなく、国も企業も頼りにならないということを知らねばなりません。
量的緩和は、世界経済が正常化し均衡状態となった場合には景気の上昇をもたらします。しかし、不均衡状態では、次のいずれかの現象が発生します。
A 貨幣の滞留。
B 貨幣が商品市場に流れ込んだときには、インフレが発生。
C 貨幣が資産市場に流れ込んだときには、資産インフレが発生。
つまり、現金通貨発行残高が巨額なほど、BとCは破壊的な規模になるのです。
米国の旺盛な国内消費が、製造業を中心とした国の最大の輸出市場となり、世界経済をけん引してきたというのがグローバリゼーションの枠組みです。この構造が崩壊したことにより、各国経済は減速を余儀なくされ、財政支出の拡大で国内景気の立て直しに努力しています。いいかえれば、世界各国で輪転機を回し、国内景気の維持拡大に努めているのです。そのため、現金通貨発行残高は各国で増加しています。
マネタリズムに従えば、量的緩和により貨幣量が増加するので物価が上昇し消費が増加します。しかし、日本ではデフレが進行し、日本経済はどんどん地盤沈下しています。企業の収益が増えても企業の内部留保となり労働者に還元されず滞留しているのです。ゆえに消費が増えず、企業も供給拡大のための投資をしません。奈落の底を脱せず、あえて奈落の底に留まろうとする経済政策の結果です。懸命に汗をかき、まじめに働いている人が、幸せになれないような社会はいい社会とはとてもいえません。われわれは自分の身は自分で守るしかなく、国も企業も頼りにならないということを知らねばなりません。
量的緩和は、世界経済が正常化し均衡状態となった場合には景気の上昇をもたらします。しかし、不均衡状態では、次のいずれかの現象が発生します。
A 貨幣の滞留。
B 貨幣が商品市場に流れ込んだときには、インフレが発生。
C 貨幣が資産市場に流れ込んだときには、資産インフレが発生。
つまり、現金通貨発行残高が巨額なほど、BとCは破壊的な規模になるのです。
2010/01/25
思想が行動を生みルールを創る
米国、オバマ政権が1月22日、新たな銀行改革案を発表しました。
大衆社会とは、数で決まる社会です。「正しさは力だ。力は数だ。」というのが大衆の言説の原則です。大衆とは有権者という意味です。多数決の決定に逆らえる政治家はいません。
2008年の貧困者は39.8万人、貧困率は13.2%です。
年間所得5万ドル未満が80%以上を占めています。
Number in Poverty and Poverty Rate
Detailed Income Tabulations from the CPS
出典 米国勢調査局(Census Bureau)
日本は、阪神大震災の時でも暴動や略奪は生じませんでした。誰もが社会のシステムによって守られていると感じているからです。米国の下級階層は、社会のシステムによって抑圧されていると感じています。だから一番最初に暴動や略奪に参加するのです。貧困層と失業率の増加は、社会的混乱の源泉です。
ペーパーマネー経済は1971年から始まりました。構造の変革です。為政者は通貨の発行量を恣意的に拡大してきました。現在の金融システムにおいて、金融機関は儲かればボーナスで回収し、損すれば国民の税金で充当させています。通貨量の膨張と金融モラルの常識を逸した行動の結果です。不良債権処理をすればするほど、国家経済は悪化していき、不良債権処理を止めるまで続きます。日本の不良債権処理と構図は同じです。世界は、物質的な裏づけのない通貨でどれだけの経済安定を保ちえるのか。壮大な実験中なのです。
思想が行動を生みルールを創ります。問題解決は、事を大きくしていかないと解決に向かいません。物事を正常化するのでは解決できないのです。どのような解決策を選ぶかという思考法でなく、どのような結果にするかが大切です。
願望の論理は未来志向です。未来は的確に分析しても的中する保証はありません。必然ではなく偶然が支配する世界だからです。予測と判断が誤ることは避けられません。誤らないのは、予測し判断しない人達です。現実の結果を淡々と受け入れていく受動的な思考と行動の持ち主です。未来の予測は、強烈な論理力を必要とします。
『秋月便り』は当月無料です。橋前勇悟氏が連載する金融経済情勢は、驚愕の情報と未来の予測です。これからの時流は、世界的な不況と物価上昇の同居する、スタグフレーションが進行する不幸な事態になりそうです。購読すれば破壊的イノベーションの過程というものを知ることができ、『遠隔学習御蔵』に参加できます。
橋前勇悟の金融経済に関するラジオ放送
1.自己資金を用いた証券売買を制限するこの規制が実施されると、ドルキャリートレードは逆転する可能性が高く、新興国や商品に投下されてきた莫大なマネーが回収されることになります。
2.銀行によるヘッジファンド所有およびヘッジファンドへの投資の禁止
3.銀行が抱える負債規模の制限
大衆社会とは、数で決まる社会です。「正しさは力だ。力は数だ。」というのが大衆の言説の原則です。大衆とは有権者という意味です。多数決の決定に逆らえる政治家はいません。
アメリカで貧困層の定義は、年収規模で220万以下です。これは日本の200万円とほぼ一致するラインということになる。アメリカでは、日本以上の市場原理主義の弊害が起こり、日本の「中流」と同じ意味に使われる多くの中間層が貧困層に転落してしまっている。出典 「ルポ 貧困大国アメリカ」(堤未果著 岩波新書)
2008年の貧困者は39.8万人、貧困率は13.2%です。
年間所得5万ドル未満が80%以上を占めています。
Number in Poverty and Poverty Rate
Detailed Income Tabulations from the CPS
出典 米国勢調査局(Census Bureau)
日本は、阪神大震災の時でも暴動や略奪は生じませんでした。誰もが社会のシステムによって守られていると感じているからです。米国の下級階層は、社会のシステムによって抑圧されていると感じています。だから一番最初に暴動や略奪に参加するのです。貧困層と失業率の増加は、社会的混乱の源泉です。
ペーパーマネー経済は1971年から始まりました。構造の変革です。為政者は通貨の発行量を恣意的に拡大してきました。現在の金融システムにおいて、金融機関は儲かればボーナスで回収し、損すれば国民の税金で充当させています。通貨量の膨張と金融モラルの常識を逸した行動の結果です。不良債権処理をすればするほど、国家経済は悪化していき、不良債権処理を止めるまで続きます。日本の不良債権処理と構図は同じです。世界は、物質的な裏づけのない通貨でどれだけの経済安定を保ちえるのか。壮大な実験中なのです。
「行動にはつねに動機があり、目的がある。動機が正義であり、目的が善であって、その行動だけが悪だということは、人間にはありえない。行動を生む動機とか目的は、その人間の思想が組み立てるものだ。思想が正しくなければ、正しい行動は生まれない。何をするかより、何を考えているかが重要なのである。行動という刃物が、利器なるか、凶器となるかは、その行動を支える思想あるいは理論が正しいか、正しくないかによって決まるのだと思う」本田宗一郎氏が語った言葉です。
思想が行動を生みルールを創ります。問題解決は、事を大きくしていかないと解決に向かいません。物事を正常化するのでは解決できないのです。どのような解決策を選ぶかという思考法でなく、どのような結果にするかが大切です。
願望の論理は未来志向です。未来は的確に分析しても的中する保証はありません。必然ではなく偶然が支配する世界だからです。予測と判断が誤ることは避けられません。誤らないのは、予測し判断しない人達です。現実の結果を淡々と受け入れていく受動的な思考と行動の持ち主です。未来の予測は、強烈な論理力を必要とします。
『秋月便り』は当月無料です。橋前勇悟氏が連載する金融経済情勢は、驚愕の情報と未来の予測です。これからの時流は、世界的な不況と物価上昇の同居する、スタグフレーションが進行する不幸な事態になりそうです。購読すれば破壊的イノベーションの過程というものを知ることができ、『遠隔学習御蔵』に参加できます。
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