グーテンベルグが15世紀に活版印刷技術を開発して以来、人類が600年近くにわたって親しんできた本のありようが変わろうとしています。世界最大の電子商取引企業である米アマゾン・ドットコム。同社が狙っているのは、電子書籍の分野で世界一の覇権を握ることで、その布石として「Kindle(キンドル)」というリーダー端末を開発しています。
電子書籍を読むための専用端末は、他メーカーからも発売されているが、キンドルがそれらと異なる点は、端末に装備されているワイヤレス機能から、携帯電話の通信網を経由してアマゾンサイトへ接続、探している本を購入して、1分程度でダウンロードできることです。最新の情報をタイムリーに配信することもできるため、電子化された新聞の購読端末としても適しており、実際にニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナル等がキンドル版の電子新聞を発行しています。この購読方法なら、自宅に溜まっていく古新聞の山に悩むことはなくなり、必要な情報(記事)をバックナンバーの中からも即座に検索することが可能です。誤って消してしまっても無料で再入手できます。
しかも、電子書籍や電子新聞をダウンロードする際の通信料はアマゾン側が全額負担するため、読者はiPhoneのように新しい情報端末を使う度に増えていく通信料金の請求書に胸を痛める必要はありません。ただしキンドル本体は購入する必要があり、6インチの画面で約1500冊のデータが保存できるモデルが299ドル、9.7インチで3500冊のデータが保存できるモデルが489ドルという設定です。07年秋に米国で発売したキンドルは、今でも注文から入手まで品薄状態が続いています。同社は販売数量を明らかにしていないが、各種推計によると発売から1年で25万-35万台程度売れたもようです。
平均的な単行本より軽い292グラムで、持ち歩くのも苦になりません。画面には本物の本のページそっくりの字体、レイアウト、質感で文章や写真が表示されます。途中で電源を切っても同じ場所から再開できます。
これまで映画やテレビ、音楽CD、DVDなど様々な新技術が登場し、情報の電子化・デジタル化が進展しました。
「本だけは機能的に余りに優れていて、代替できる電子技術が実現できなかった」「三年越しの開発でようやく本好きの使用に堪えるレベルの製品ができた。将来は絶版となったものを含めあらゆる本をキンドル上で読めるようにしていきたい」
アマゾンの創業者で最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏。
カギとなった技術の一つが、印字された紙と同様、自然光の反射だけで文字がハッキリ視認できるようにした表示技術である電子ペーパーです。後ろから人工光を照らす液晶に比べて目に優しく、長時間の読書にも向いています。
■ワイヤレス電子書籍リーダー キンドル(Kindle)
http://www.amazon.com/Kindle-Amazons-Wireless-Reading-Generation/dp/B00154JDAI/
※現在のところキンドル端末の日本語版は発売されていない。
この手の電子リーダー端末は、コンテンツ(電子書籍)が豊富に揃ってこそ有意義に使えるものだが、他社の場合には端末の開発には注力するものの、肝心のコンテンツは一部の出版社と業務提携をする程度で、それ以上にコンテンツが充実していかないことから、大半が失敗に終わっています。しかしアマゾンは、世界で1億人を超す読書家を顧客として抱えていることを背景に、下手なセールスをしなくても、出版社や著者からコンテンツを提供してもらいやすい立場にあります。既にアマゾン内に設けられた「Kindle Store」で購入できる電子書籍のコンテンツは30万タイトル以上が揃っています。各タイトルの価格(定価)は15~25ドルと紙書籍と同水準の表記がされているが、今はキンドルの普及キャンペーン中ということもあり、割引された実売価格の相場は10ドル前後(9.99ドル)になっています。
■Kindle Store
http://www.amazon.com/kindle-store-ebooks-newspapers-blogs/b?ie=UTF8&node=133141011
もともと米アマゾンでは、書籍を割引販売する方針であることに加えて、電子書籍は複製コストがかからないことから、紙書籍よりも安価な価格設定にすることが可能です。しかし「1冊9.99ドル」の設定には賛否両論があって、一般の読者は紙書籍よりも安く購入できることを歓迎している一方、収益面では、アマゾンがキンドルの通信費を負担した上で黒字を出すことは難しいという指摘もあります。
一方、キンドル向けコンテンツを提供する出版社の側からも“儲からない”という声が上がっています。電子書籍ビジネスでは、コンテンツの実売価格に対して4割が販売者、6割が出版社(著者印税も含む)という収益分配が標準になっているが、実売価格の相場を下げると実質的な利益は落ち込むし、書籍の電子化作業を販売者側に任せるのであれば、さらに分配率は低くなります。キンドルで購読可能な電子新聞は、新聞社が記事の使用許諾をしてアマゾン側が記事を電子化するという取引関係になっているが、その際に新聞社側に支払われる記事のライセンス料は、購読料の30%であることが米国議会で明らかにされています。新聞社がネットの巨人、アマゾンと提携するのは時代の流れとしても、消費者が安価で便利な電子新聞を購読することと引き替えに、既存の紙版読者が減ってしまうと、新聞社の経営が立ち行かなくなってしまうことが、議会でも懸念されています。
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