2009/12/20

書店経営

つい十年前まで、百貨店やショッピングモールで集客力のあるテナントと言えば「書店」が筆頭に挙げられていました。特別な目的はなくても、とりあえず書店に行けば空いた時間を潰すことができるし、偶然に立ち読みした中で気に入った本に出会うこともできました。ビジネスマンにとっても、新しい知識を収集する場として書店は欠かせない存在です。

ところが最近では、その書店が“つまらない場所”と感じることも多くなっています。どの店も品揃えは、新刊のベストセラーが中心で代わり映えしません。目的の本を探そうとすれば、アマゾンのようなオンライン書店のほうが便利であるし、ユーザーが投稿した書評も充実しています。これなら、わざわざクルマで書店まで行く必要もないだろうと思う人が増えているからです。

公正取引委員会の報告によると、全国に存在する書店の数は、2001年には21,000店だったのが、2008年には16,000店にまで減少しています。一年間に閉店する書店が 1,200店あるのに対して、新規開店するのは 390店と、その数値だけをみれば完全な斜陽産業です。ただし書店の総売場面積は逆に拡大している傾向にあります。それが意味するのは、売場面積が拡張できない中小の書店は次々と閉店へ追い込まれて、資金力のある大手書店だけが売場面積を広げることで生き残りを賭けているという状況です。

しかし大手でさえも安泰というわけではありません。出版業界は全体でベストセラーが生まれにくくなっており、売上の不振分は新刊本を増やすことで補おうとする構造に変化しています。しかし国内で新刊本の出版点数が増えているにも拘わらず、その総販売部数は十年前より2割近く落ち込んでいます。

《書籍の総販売部数と新刊本点数の推移》
         新刊点数   販売部数
1996年  63,054点  91,531万冊
1999年  65,026点  79,186万冊
2003年  72,055点  71,585万冊
2005年  76,528点  73,944万冊
2007年  77,414点  75,542万冊
※出所:書籍・雑誌の流通・取引慣行の現状(公正取引委員会)
新刊は増えても販売部数は減少している傾向

それでも書店の経営が維持できるのは、書籍の流通は委託販売制が基本で、店頭に並べても売れなかった本は返品できるためだが、その返本率は4割を超えています。つまり10冊の本を刷っても4冊が売れ残るという状況は環境に優しくないし、出版社にとっても効率の良いビジネスとは言えません。しかもこの数字にはベストセラー本も含まれているため、大多数のヒットしなかった本に絞ってみれば更に返本率は高くなっています。発売後に売れなかった時のリスクは出版社が背負うことになるが、必ずしもその本の内容が悪いというわけではありません。読者層が限られてしまうビジネス書の話でいえば、1万部売れる本は希なヒット作で、平均的な売れ行きは3千~5千部といったところです。すると、著者に入る印税収入は30~50万円にしかならず、本を書くことだけで生計を立てられるのは、プロの中でもごく一部の人達に限られてしまいます。

そこで見直されているのが「書籍」そのものの規格や形式です。読者にとっても、分厚くて重い本を通勤カバンに入れて持ち歩きたいとは思わないし、読み終えた本を収納しておくスペースも自宅に確保することは難しくなっています。本の読み方にしても、忙しいビジネスマンは購入してすぐに読むのではなく、有意義な知識や情報をストックしておいて、必要な時に検索して活用したいというニーズへと変化しています。書籍の電子化は避けられない流れだが、その時の書店、出版社、著者の役割や収益モデルは従来と異なる形になり、新たな知識の売り方ができるようになります。

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