世界経済の急激な縮小はデフレの津波となり、世界を襲いました。大不況は一つの時代を終わらせ、次世代の科学技術を開花させて新時代の開幕を促す経済の摂理です。パナソニック(旧松下電器産業)を創業した松下幸之助は不況克服の心得十カ条を残しました。古い価値観が崩れる時こそ、挑戦者のリスクや参入障壁が低くなります。変革と挑戦は知的蓄財となり、科学の開花を産み出し、新しい社会に移行していきます。
歴史を振り返ると、過去四回の世界大不況がありました。一回目は米国の鉄道建設バブルが崩壊した1873年恐慌です。軽工業から鉄鋼などの重工業生産が主要な産業となったために生じた不況です。国内で過剰となった資本は海外に向かい、列強が市場と資源を確保しようと争う帝国主義の時代です。軽工業(繊維工業)を中心にしてヘゲモニーを握った大英帝国は没落しました。電話機の発明による通信革命が起こり、機械技術の発明や発見も相次ぎ、近代工業社会が開幕しました。
二回目は反トラスト運動が激化する下での1907年の金融恐慌です。二十世紀最初の恐慌です。1908年に大衆車T型フォードの発売で輸送革命が始まり、大量生産、大量消費の時代に突入しました。
三回目は1929年の大恐慌です。ナイロンや合成樹脂など素材革命が起こりました。37年には米国でコピー機、ポラロイドカメラの原型などが相次ぎ登場し、「発明ラッシュの一年」と呼ばれました。
第二次世界大戦が終了した45年には、米ペンシルベニア大が世界初の大型汎用デジタルコンピュータ「ENIAC」(Electronic Numerical Integrator and Computer)を誕生させています。
四回目は1973年の石油ショックによる世界不況です。その後、ビル・ゲイツらの登場とIT(情報技術)の発展で情報革命が始まり、脱工業化社会が開花しました。
今回の不況で世界はどう変わるのでしょうか。過去一世紀半、近代工業社会が破壊した生活環境を修復し、環境創造の循環型社会に転換するのは必然です。資本主義の発展とともに概念化された大量生産・大量消費のモデルは、今や先進諸国においては崩壊しています。新エネルギーや素材、バイオ、宇宙など先端技術を総動員し、生活を全面的に見直すグリーン革命が始まるでしょう。炭素文明から水素文明への転換です。
変革と挑戦は全体(組織)にとっても部分(個人)にとっても共通のテーマです。変革と挑戦とは、あらゆる領域における量から質への転換です。質を追求するということは、一つのことにどれだけ深く関われるかどうかのプロセスであり、一定のレベルに甘んじることなく自己変革をやり続け、他との良好な関係性を高めていくことによって、成果を約束されるのです。社会環境は多様性への対応も要求しています。そこにネットワーク組織の必然性が存在しています。量を追求すると同業他社とは競合関係になるが、質を求めて動くと協力関係ができます。競争から共創です。自他非分離の考え方が共創を生み出します。
「不況克服の心得十カ条」
第一条 不況といい好況といい人間が作り出したものである。人間それを無くせないはずはない。
第二条 不況は贅肉を取るための注射である。今より健康になるための薬であるからいたずらに怯えてはならない。
第三条 不況は物の価値を知るための得難い経験である。
第四条 不況の時こそ会社発展の千載一遇の好機である。商売は考え方一つ、やりかた一つでどうにでもなるものだ。
第五条 かつてない困難、かつてない不況からはかつてない革新が生まれる。それは技術における革新、製品開発、販売、宣伝、営業における革新である。そしてかつてない革新からはかつてない飛躍が生まれる。
第六条 不況、難局こそ何が正しいかを考える好機である。不況のときこそ事を起こすべし。
第七条 不況の時は素直な心で、お互い不信感を持たず、対処すべき正しい道を求めることである。そのためには一人一人の良心を涵養しなければならない。
第八条 不況のときは何が正しいか考え、訴え、改革せよ。
第九条 不景気になると商品が吟味され、経営が吟味され、経営者が吟味されて、そして事が決せられる。従って非常にいい経営者のもとに人が育っている会社は好況のときは勿論、不況のときにはさらに伸びる。
第十条 不景気になっても志さえしっかりと持っておれば、それは人を育てさらに経営の体質を強化する絶好のチャンスである。
松下幸之助の正しさは歴史が証明しています。
2010/01/11
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