日本政府も民間企業に先駆け、特許庁が在宅勤務の導入を進めているように、世界に向けて遠隔勤務推進派の立場を示そうとしています。日本国内で広義のテレワーカーと呼べる人達は労働者全体の46%に該当しています。そのうち、会社に勤めている「雇用型テレワーカー」が43.0%、会社からは雇われていない「自営型テレワーカー」が66.4%です。「広義テレワーカー」とは、社内の他に、社外からでもITを使える環境にある人のことを指しています。営業セールスに出かける際にはノートパソコンを持ち歩き、外出先からでもネットにアクセスしている人、携帯電話でメールの送受信をしている人も広義のテレワーカーとしてカウントされます。対象を絞り込み、会社以外でITを使って仕事をしている時間数が1週間に8時間以上を超える人を「狭義のテレワーカー」とすると、その割合は全体の15.2%になります。
国土交通省 2008年度 テレワーク人口実態調査の結果について ―「ITを活用した場所や時間にとらわれない働き方」の実態調査―
先進国では、ビジネスのワークスタイルを変えることを、国策として政府主導で推進しています。近い将来にはCO2の削減活動と同様にテレワークについても、政府が企業に対して一定割合の導入を義務付けることも検討されています。
その背景には、様々な社会的背景が絡んでいます。
1つは危機管理の視点です。地球温暖化や交通渋滞の他にも、9.11のテロ事件以降、都市部のオフィスに一極集中した事業のやり方を改めようとする動きです。テロの他にも、大地震や新インフルエンザのような細菌感染などのリスク対策として、社員の中で遠隔勤務者を一定の割合で作っておくことが求められているのです。
2つめは社会保障制度の崩壊です。ビッグスリーは、退職者への過剰な社会保障費の負担で破綻しました。企業で働く従業員に医療費の他に老後の年金まで保障するシステムは、退職者よりも現役社員の数が多いことが収支を成り立たせるための前提です。ほとんどの先進国では、労働者は平等に扱われており、賃金の中から一定率の社会保障費が天引きされるシステムになっています。
しかし実際には、どの先進国も一人の現役が複数の退職者を支える構造へと変化しているため、少子高齢化が進むほど「平等な社会保障制度」の維持は成り立ちません。欧州では現役世代が支払う月額給与からの保険料率が20~40%まで高騰しています。企業と社員とが折半して国に納めているのも日本と同様です。企業はその重い負担が経営の足かせになっており、社員も「給与額×料率」による非常に高い保険料負担が家計の足かせになっています。その資金は、将来の自分のためではなくて、現在の高齢者や失業者のために使われているのです。
■EU諸国における賃金に対する社会保障費の負担状況
・オーストリア 22.8%(企業負担:12.6%+社員負担:10.2%)
・ベルギー 37.9%(企業負担:24.8%+社員負担:13.1%)
・ドイツ 19.5%(企業負担: 9.7%+社員負担: 9.7%)
・イタリア 32.7%(企業負担:23.8%+社員負担: 8.9%)
・イギリス 19.9%(企業負担:10.9%+社員負担: 8.9%)
・ギリシャ 20.0%(企業負担:13.3%+社員負担: 6.7%)
・スペイン 28.3%(企業負担:23.6%+社員負担: 4.7%)
(日本) 15.7%(企業負担: 7.9%+社員負担: 7.9%)
※社会保障費により退職年金、医療保険、失業保険などが賄われている。
※出所:財務省財務総合政策研究所
社会保障制度の機能を維持させるためには構造の変化が必要です。構造を維持しようとして機能を失い、目的を果たせなくなくなるのは本末転倒です。そのため欧米企業では、社員との関係を雇用から委託や請負の関係へと変更することが1995年頃から進んでいます。企業と現役労働者の双方が社会保障費の負担を軽くすることが目的です。雇われていることの利点は最低限の賃金、医療、年金などが保障されていることですが、将来の自分が利用するであろう公的サービスの中身よりも、割高な保険料を支払わなくてはなりません。実力やスキルがあり、独立したスペシャリストは、公的な社会保障から脱退し、自身で各種の保険会社と契約し、自分が積み立てた金額に見合うだけの保障が将来にわたり受けられる人生プランを手に入れることができます。
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