2010/02/06

デジタル化が促す出版業界再編

日本の出版市場規模は2兆円台割れがいよいよ現実になり始めています。将来の課題ではなく、今日の課題です。2008年の出版市場規模は2兆200億円でした。2009年は雑誌が5%減、書籍が3%減になれば2兆円台を割ります。出版業界は、雑高書低といわれるように雑誌販売の収益で書籍を扱う収益構造です。雑誌は従来から続く販売収入の減少に加え、広告収入は激減、発行する雑誌の半数以上が赤字という出版社も珍しくありません。新聞広告からは上場企業の名が消え、地方新聞にいたっては、一昔前の三流新聞のような広告が紙面を飾っています。来春予定の日本経済新聞の電子新聞版は、出版物の電子化をさらに加速させます。出版業界は、印刷、出版、流通、書店、リサイクルと裾野が広い産業です。メディア環境の変化に対応していくには、異文化と適合せざるをえないのです。

拡大が予想される電子書籍市場で国内での主導権を確保しようと、講談社、小学館、新潮社など国内の出版社21社が、一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」(仮称)を2月に発足させる。米国の電子書籍最大手アマゾンから、話題の読書端末「キンドル」日本語版が発売されることを想定した動きだ。携帯電話やパソコン上で読める電子書籍市場で、参加予定の21社が国内で占めるシェアはコミックを除けば9割。大同団結して、デジタル化に向けた規格づくりや著作者・販売サイトとの契約方法のモデル作りなどを進める。

出典 2010年1月13日 電子書籍化へ出版社が大同団結 国内市場の主導権狙い   

情報産業の歴史は4つのステージがあります。最初がアナログのテクノロジーを使った情報の道具です。近代工業では、大量生産が価格を引き下げます。新技術製品は、登場した当初は大量生産ができないので高価格ですが、代替品が無ければ特定の裕福な人々やそれで産業を拡げる企業などが買うので、少しずつ市場は拡大します。それをテコに徐々に生産規模も拡大、価格も低下、これが需要を拡大、一段と大量生産が進むという経路を辿るのが普通です。テレビ、印刷機械、ラジオあるいは電話など、アナログのテクノロジーをベースとした道具が次々に生まれました。次は、この道具を道具として使ってサービスを提供するアナログ情報サービスです。すなわち、一番最初はアナログのテクノロジーを提供する産業、二番目はアナログサービス産業です。三番目にやってきたのがデジタルの道具の産業です。最初にコンピュータを使わないで情報を伝達する道具が生まれて、サービスが生まれました。次にコンピュータを使ったものとしての道具が大いに繁栄する時代がやってきました。いわゆるIT産業です。そして四番目は、現在進行中のこのデジタルの道具を道具として使って、サービスを提供する、デジタル情報サービス産業です。

デジタルビジネスの特徴は、数字で言えば二つの数字で表わせます。一つがゼロです。時間差がゼロ、情報劣化がゼロ、変動比がゼロということであり、さまざまな特徴をゼロで表わすことができます。もう一つは無限大です。無限大のユーザー、無限大の在庫の種類、無限大の情報の深さ・広さ・コミュニティー、無限大のリサーチなどを提供することができます。従来の物理的手法は規模が限られています、従って有限にならざるを得ません。

日本でのケータイ文化を背景に、携帯電話向けの書籍コンテンツの売上が急速に拡大してきました。2007年前後では、ケータイ小説ブームが起こったのは記憶に新しいところです。電子書籍ビジネスは、コミックや写真集が中心となっており、アダルト系のコンテンツが大半を占めています。2008年の市場は推定で464憶円となり、今後も拡大が見込まれる市場です。

出典 離陸する電子書籍ビジネス(4):日本市場の行方

電子書籍は未だ黎明期です。米国でも2008年の時点で 100億円に満たない市場規模です。日本では携帯版の電子書籍が普及している分だけ、米国よりも日本のほうがビジネスの枠組みは出来上がっています。日本の電子書籍ビジネスは出版社との関係を良好に維持した保守的なモデルです。大手の出版社や携帯会社が共同出資をする形で電子書籍会社を立ち上げて、書籍を電子化、コピーができない著作権保護機能などを加えた上で、PC向けの大手ポータルサイトや携帯向けのコンテンツとして有料配信をする業界構造です。世界で最も普及している電子文書のフォーマットは、「PDF(Portable Document Format)」です。PDFは、日本の携帯向け電子書籍として読みやすいページを制作することは不向きであるがゆえ、モバイル端末での閲覧を目的に開発された国産プラットフォームのほうが広く採用されています。国産プラットフォームによる電子書籍の制作環境は、制作ソフトのライセンス料が高額なため、中小の出版社や個人の著者にとっては敷居が高いものになっています。結果として、ケータイ向けの電子書籍ビジネスは大手が有利の構図が出来上がっています。ゆえにガラパゴス化しているのです。

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